アメリカの名優ドナルド・サザーランド氏が、今月20日、フロリダ州マイアミで亡くなったという。
88歳だった。
私はサザーランド氏が、出演した映画を数本見ている。
「マッシュ」「赤い影」など。
その中で、一番印象に残ったのは、1980年製作のアメリカ映画「普通の人々」
この映画は、人気俳優のロバート・レッドフォード氏が監督した。
レッドフォード氏は、この映画では出演せず、演出に専念。
私は「普通の人々」を、1980年代にテレビで見た。
「アカデミー賞の作品賞、監督賞を獲得した名作だ」とは、見る前に聞いていた。
しかし、(俳優のレッドフォードが演出したから、そんなに良いのかなあ?)と疑っていた。
ところが実際に見てみると、演出が見事で、一糸乱れない。
アメリカ中西部の町の、移ろいゆく季節を撮ったカメラも、お見事だった。
「普通の人々」は、良い映画、完成度の高い映画である。
後で知ったのだが、レッドフォード氏は、俳優になる前、画家志望だったという。
美的感覚が優れ、自分の映画に、美しい景色をおさめる事が出来たのだろう。
普通の人々は、こんな映画である。
シカゴの郊外に、弁護士カルビンの一家が暮らしていた。
彼の一家は立派な邸宅を構え、互いを尊重し、幸せであった。
ところがある日、長男バック、次男コンラッドが乗ったボートが、嵐により湖で転覆。
バックは、溺死した。
するとコンラッドは、(兄貴が亡くなったのは、自分のせいでは?)とウジウジ悩むようになった。
そして、自殺未遂を起し、精神病院へ入院した。
コンラッドは、退院し、家へ戻ってきた。しかし、そんな彼に母親のベスは、冷淡な態度を取ってしまう。ベスは亡くなった長男に、大きな期待をかけていたようだ。
父親のカルビンは、気弱な性格で、心を病んだ息子を救ってやる事が出来ない。
カルビンの一家は、中流家庭で、幸せに暮らしていたはずだった。が、長男の事故死をきっかけに、お互いの悩み事が噴出。崩壊してゆく・・。
普通だった家庭は、普通ではいられなくなった。
ある一つの出来事をきっかけに、普通ではいられなくなる・・。
というのは、どこの家庭でもあり得る事だ。
一家の主が、突然、職場をリストラされる。働き盛りなのに収入がなくなり、以後、生活に頭を悩ませる。
明るい性格だと思っていた子供が、同級生とのトラブルで突然、不登校に。親は日々、子供を学校にどう戻そうか、と悩む。
家族の誰かが、突然、重病や認知症、交通事故での負傷が原因で、介護が必要となる。他の家族はやがて、介護疲れが出て来る。
現在、日本には、こんな家庭が、多くあるに違いない。
普通というのは、脆く、崩れやすいものである。普通でいる事は、実は難しいのだ。
「普通の人々」は、アメリカ映画なのだけど、ヤンキーぽい明るさはない。
監督のレッドフォードは、一家の崩壊を、冷たい目線で演出している。
「普通の人々」で、一家の主カルビンを演じたのが、ドナルド・サザーランド氏であった。
サザーランド氏のご冥福をお祈りします。
●この記事の動画は、「普通の人々」の予告編