今世紀に入ってから、日本で急激に人気が上がった芸術家が二人いる。
一人は、江戸時代に活動していた日本の絵師伊藤若冲。
もう一人は、1600年代にオランダで活動していた画家のヨハネス・フェルメールだ。
この二人の展覧会が開かれると、長蛇の行列ができる事も少なくない。
この記事では、後者の作品について取り上げたい。
ヨハネス・フェルメール作「天秤を持つ女」
フェルメールの作品で、最も人気が高いのは、
「真珠の耳飾りの少女」
だ。
これに較べると、人気、知名度はずいぶん下がってしまうのだが、フェルメールは、「天秤を持つ女」という絵画も残した。
この絵画を見ると、テーブルに真珠のネックレス、金貨が散らばって描かれてるのが、わかる。
では、この絵の中の女性は、天秤で何を計量しているのか?
テーブルに、真珠、金貨が描かれているから、これらを量っているのだろう、と長らく人々に思われてきた。
ところが、今から20年ぐらい前に、顕微鏡で調査してみると、天秤には、何も乗せられていない事が判明した。
女性は、天秤を持っているくせに、何も量っていない。
★このあたり、とても奇妙である★
しかし、この絵をよく見ると、壁に「最後の審判」が飾ってあるのが、わかる。
つまり、絵の中に「最後の審判」を描いた他の絵があるのだ。
絵の中に描かれた他の絵を、「画中画」と言う。
作品の中の天秤は、この「最後の審判」と関係していると見られている。
●天秤は、正義、公平の象徴●と西洋ではされた。
そして、「最後の審判」が下される時、大天使ミカエルが人間を天秤に乗せ、魂を量って、天国へ行くか、地獄へ行くか決めると、言われてきた。
この話から考えると、「天秤を持つ女」に出てくる天秤には、
「この女性自身もいつか審判を受ける」
「自分自身の行動を、秤にかけて、バランスを取りながら生きるべきである」
という隠された意味があるという。
また、絵の中に描かれている女性は、体型から妊娠していると思われる。
そして、青いガウンを着て、真珠がテーブルに置いてある事から、彼女は、聖母マリアが世俗化した姿だという説がある。
中世のヨーロッパでは、聖母マリアは、海に例えられた。
そして海は青い。
だから、聖母マリアが絵に描かれる時は、青いマント、青いガウンを着ている事が多かったのだ。
それから、フェルメールが生きていた時代のオランダでは、聖母マリアの処女性を、真珠で表していたという。
その為、この絵には、
「最後の審判が来る前に、聖母マリアが人々を取り成そうとしている」
という意味も、こめられている可能性があるようだ。
天秤を持つ女の絵。
一見すると、単なる風俗画に思える。
だが、その裏には、生と死、最後の審判による裁き、といった具合に、人類の壮大なドラマが隠されているようだ。
しかし、その確たる証拠はない。
フェルメールの研究家が、この作品を深読みしているだけかもしれぬ。