2010年代に入ってすぐ、私は2、3度、チベタンマスティフを記事にした事があった。
この犬は、中国のチベット高原原産の大型犬である。
体重は100㎏を超える事もある。
大柄の割に身のこなしがしなやかで、勇猛。
だから、「虎と闘っても勝てる場合がある」という説もある。
そして、飼い主に忠実である。
昔、チンギス・ハーンが西方に遠征した時は、チベタンマスティフ3万匹を連れて行ったという。
戦さにも、役立ったようだ。
だが、現代では数が少なくなっていた。
バブル経済となった中国では、2000年以降、チベタンマスティフが人気になった。
「強く、珍しい犬を飼えば、自慢ができる」と、中国の成金たちが、この犬をこぞって買い求めたからだ。
その為、取引価格は、ぐんぐん上がっていった。
そして、遂にたった1匹に、数千万円~2億円の値が付くようになった。
だが、チベタンマスティフは、広い広いチベット高原原産の犬だから、中国の都市部は、むいていなかった。
ストレスがたまるのか、飼い主と街中を散歩している時、通行人を噛む事件が、続出した。
やがて、2013年には、3歳の女児を噛み殺してしまう。
この事により、チベタンマスティフの人気は、急激に衰えた。
あんなに高かった値段が下がりに下がり、1匹数万円でしか取引きされなくなった。
これに頭を、抱えたのは、犬のブリーダーである。
チベタンマスティフを、成金に高値で売り、自らも大金持ちになろうとしていた。
その目論見は、すっかり外れてしまった。
売れても、1匹数万円程度にしかならない上、大型犬の為、毎日与えるエサ代が馬鹿に出来ない。
2016年、「チベタンマスティフを、食肉業者に売るブリーダーが出て来た」と、私は聞いた。
一時は2億円の値段を付けていた犬が、その数年後、食肉用として処分されるようになったのだ。
一方、チベットのブリーダーの場合は、宗教上の理由から、チベタンマスティフを、食肉に出来ない。
向こうの宗教では、「生き物の殺生は禁じられている」のだ。
この為、チベタンマスティフを、捨てる者が続出した。
野良犬化したチベタンマスティフは、家畜や、キツネ、カワウソを襲って食べる場合があり、家畜を飼っている農家に迷惑をかけているようだ。
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中国では、バブルになって以降、チベタンマスティフの他にも、投機の対象になったものは多い。
生姜、プアール茶、砂糖、豆など。
これらは、品質が良い物が出ると、商人が、
「特別な商品だ」
と喧伝して売る為、高値になっていった。
それに目をつけた者が、転売して儲けようと、買い占める。
その為、値段がさらに上がってゆく。
が、ある日、突然値段が暴落するのだ。
機を見るのが疎い者は、こういう投機で、大損してしまう。
そして、借金を作り、自らの命を絶った者が大勢いる、という。
砂糖の高騰と、2014年のその暴落は、中国経済に大きいダメージを与えた、という。
そして新型コロナウイルスの発生後、中国のバブルは、遂にはじけた。
一時は、たった1匹で、2億円という値段までつけたチベタンマスティフの事を考えても、中国のバブルがはじけたのは、「当然だった」と言えよう。