第81条【法令等の合憲審査権】最高裁判所は、一切の法律、命令、規則又は処分が憲法に適合するかしないかを決定する権限を有する終審裁判所である。

 

≪私なり解説≫

○憲法第81条は、【法令等の合憲審査権】について定めています。最高裁判所が、一切の法令等(法律、命令、規則又は処分)の合憲審査権(憲法に適合するかしないかを決定する権限)を有する、最終最後の裁判所(終審裁判所)です。

 法律の制定は「国会」が権限を有するので国会に対して合憲審査権を持ち、命令及び規則の作成、法律を含めたそれら法令等の適用又は処分行為は「内閣(行政)」が権限を有するので内閣に対して合憲審査権を持ちます。合憲審査権は、違憲(立法)審査権とも呼ばれています。

 この合憲審査権は、最高裁判所についてしか書かれていませんが、下級裁判所にもこの権利はある、とされています。81条が「最高裁判所は(中略)決定する権限を有する終審裁判所である。」としていることから、その最高裁の手前で下級裁判所が合憲審査を行う権限を当然持っていると読み取ることは可能です。毛利透氏著「憲法入門」でも、このことについて『下級裁判所もこの権利を有すると考えられ、実際にも行使されてきました。』と説明しています。

 また、この81条の法令等には条約が挙げられていません。合憲(違憲)審査が条約にも及ぶかについては争いがあります。通説は、憲法優位説の中の「違憲審査の対象となる肯定説(積極説)」で、私もこの説を支持します。このことについては、ウィキペディア「違憲審査制」の中の「違憲審査の対象」の項目の1つ『条約』に、詳細に書かれていますのでご参照願います。

(参照)ウィキペディア「違憲審査制」 違憲審査制 - Wikipedia

 

○さて、この合憲(違憲)審査権に基づいて、どのくらいの割合で違憲判決が出ているのか?を知るためには、これまでの合憲(違憲)審査請求件数、すなわち分母のデータがなければ客観的評価はしづらくなります(これまでの違憲判決数は後述)。ネットで私が調べた範囲ではそういった記載が出てこないため、2022年2月21日に最高裁判所広報課に電話で確認したところ、『違憲審査請求の申立て件数は、統計を取っていない。把握していない。』とのことでした。データ自体がない(ただし、国政調査権などを使えば出てくる可能性はあります。)ため、違憲判決の率を出すことは出来ませんが、日本経済新聞(下記リンク参照)によれば、アメリカと比較すると『法令の違憲判決は、米の1割以下』だそうです。アメリカとの人口経済規模を勘案しても、日本の違憲判決はとても少ないと言えます。なぜ少ないのか?と言えば、第78、79、80条で解説しましたように【裁判官の身分保障】が脆弱であること、また法律の内容やその適用に対して憲法に適合しているかどうかチェックする国民的な関心、国に対しての憲法遵守(させる)観念の低さ、があると私は感じます。

(参照)日本経済新聞HP2021年5月3日「<10件>違憲判決 米の1割以下」 〈10件〉違憲判決、米の1割以下: 日本経済新聞 (nikkei.com)

 

○それでは、日本のこれまでの違憲判決についてです。これまでに、法令違憲の判決は10件、適用違憲の判決は13件、あるようです。弁護士山中理司のブログ「最高裁判所における違憲判決の一覧」に詳細がありますので、下記リンクをご参照願います。また、最高裁で合憲(違憲)審査を行う場合は大法廷で行うこととなっており、それは裁判所法第10条や、関連して最高裁判所裁判事務処理規則第7条や第12条に定めがあります。

最高裁判所裁判事務処理規則

 第7条 大法廷では、九人以上の裁判官が出席すれば、審理及び裁判をすることができる。

 第12条 法律、命令、規則又は処分が憲法に適合しないとの裁判をするには、八人以上の裁判官の意見が一致しなければならない。

(参照)弁護士山中理司のブログ「最高裁判所における違憲判決の一覧」 最高裁判所における違憲判決の一

覧 | 弁護士山中理司のブログ (yamanaka-bengoshi.jp)

(参考)裁判所法 裁判所法 | e-Gov法令検索

(参考)最高裁判所裁判事務処理規則 最高裁判所裁判事務処理規則(原文は縦書き) | 裁判所 (courts.go.jp)

 

○最後になりますが、この合憲(違憲)審査が最高裁に上告される前に判決が確定することはあるのでしょうか? 法令自体の違憲判決が地裁や高裁で出された場合、国は徹底して争うでしょうから、おそらく途中で止まることはないと思います。かたや法令の合憲判決が地裁や高裁で出された場合、原告団の事情により途中で止まることはあり得ると思います。また、法令等の適用違憲判決が地裁や高裁で出された場合は、その内容がひどければ国も憲法違反を認め判決が確定することもあると思います。想像でしか語ることが出来ませんので、こうした意味からも客観的な分析が出来るように、裁判所は合憲(違憲)審査請求の分類別の仕分けをして記録し、そのデータを公表することが、国民の権利充実に役立つものになると私は考えます。

※適用違憲判決が高裁で確定した事例を、時事ドットコムニュースが昨年10月7日に伝えています(下記リンク参照)。東京高裁が昨年9月22日に、「難民不認定処分を受けたスリランカ人男性2人に対し、入管が裁判を受けさせず強制送還したことを違憲」(時事ドットコム記事から引用)とした判決が、昨年10月7日に確定したとのことです。入国管理施設での非人道的な扱いは横行しているようで人権上問題があり、憲法遵守の観点からも是正させなければならない問題です。

(参照)時事ドットコムHP『「裁判させず送還」違憲判決が確定 国と男性側、上告せず』 「裁判させず送還」違憲判決が確定 国と男性側、上告せず:時事ドットコム (jiji.com)