第65条【行政権と内閣】行政権は、内閣に属する。

 

第66条【内閣の組織】内閣は、法律の定めるところにより、その首長たる内閣総理大臣及びその他の国務大臣でこれを組織する。

②内閣総理大臣その他の国務大臣は、文民でなければならない。

③内閣は、行政権の行使について、国会に対し連帯して責任を負う。

 

≪私なり解説≫

○まず第65条の『行政権』とは何か?ということですが、芦部信喜氏著「憲法」によれば、行政権とは、「すべての国家作用のうちから、立法作用と司法作用を除いた残りの作用である」と解するのが通説であると説明しており、この解釈を「控除説」または「消極説」と呼んでいます。また、毛利透氏の「憲法入門」によれば、現段階において「控除説」を批判する内容の「法律執行説」が有力に唱えられていると説明しています。法律執行説は、「行政権とは法律の執行権のことであり、行政権は常に法律に基づいて発動されなければならない」(毛利氏著「憲法入門」より引用)とするものです。どちらの説でも私は構わないと思いますが、問題が生じた場合に次条第3項の「責任」をきちんと取らせることが大事なのではないかと考えます。

※2022年9月27日に日本武道館で行われた『故安倍元首相の国葬』から行政権について考えてみますと、厳格に法律に基づいて行政が行われる「法律執行説」の方が適切ではないかと考え直しています。(2023年1月23日追記)

 

○つぎに第66条第1項では「内閣は、法律の定めるところにより、その首長たる内閣総理大臣及びその他の国務大臣でこれを組織する。」と書かれてあります。『法律で定めるところ』の法律とは、内閣法のことです。具体的には内閣法第2条と同法附則になります。その国務大臣の人員は、内閣法第2条第2項(下記参照)により、特別に必要がある場合においては『17人以内』となっておりますが、内閣法附則2、3及び4項(参照)により、『20人以内』とすることができるようになっています。現在の岸田内閣でも、その上限である20人の国務大臣で組織されています。ちなみに、内閣総理大臣も国務大臣のうちに含まれます。

(参照)

内閣法 第2条

2 前項の国務大臣の数は、十四人以内とする。ただし、特別に必要がある場合においては、三人を限度にその数を増加し、十七人以内とすることができる。

内閣法 附 則

2 復興庁が廃止されるまでの間における第二条第二項の規定の適用については、同項中「十四人」とあるのは「十五人」と、同項ただし書中「十七人」とあるのは「十八人」とする。

3 国際博覧会推進本部が置かれている間における第二条第二項の規定の適用については、前項の規定にかかわらず、同条第二項中「十四人」とあるのは「十六人」と、同項ただし書中「十七人」とあるのは「十九人」とする。

4 東京オリンピック競技大会・東京パラリンピック競技大会推進本部が置かれている間における第二条第二項の規定の適用については、前二項の規定にかかわらず、同条第二項中「十四人」とあるのは「十七人」と、同項ただし書中「十七人」とあるのは「二十人」とする。

(参考)内閣法 内閣法 | e-Gov法令検索

 

○第66条第2項の文民規定についてですが、ウィキペディア「文民」の項目によりますと、

『日本国憲法66条2項にいう「文民」とは、1973年の政府見解では、次に掲げる者以外の者をいう。

  1 旧陸海軍(大日本帝国陸軍及び大日本帝国海軍)の職業軍人の経歴を有する者であって、軍国主義的思想に深く染まっていると考えられる者。 

  2 自衛官(陸上自衛官海上自衛官航空自衛官)の職に在る者。』となっています。

(参照)ウィキペディア「文民」 文民 - Wikipedia

 

 政府見解2の「自衛官の職に在る者」には、自衛隊OBは含まれておらず、結局のところこの66条2項の文民条項は意味がなくなってしまいます。意味がなくなる理由として、①自衛隊員が国務大臣に抜擢されれば、通常その自衛隊の職を辞して就任することになり、政府見解「2」の規定自体の意味は形骸化するため、②政府見解「1」の旧陸海軍の職業軍人の経歴を有する者は存命であってもかなりのご高齢であって、この「1」の規定自体が現実味のあるものではなく、従って「2」の自衛官の職に在る者のみが『文民以外』となりその結果、この憲法66条2項が空文化してしまうこと、が挙げられます。

 自衛隊はたとえ専守防衛に限ったとしても「軍」としての予備的組織であり、現役自衛官のみならず自衛隊OBについても内閣及び国会ひいては国民に多大な影響を及ぼすこことから、その国務大臣任命は憲法違反であると私は思います。

 

 これまでに、自衛隊OBの防衛大臣任命は、中谷元(陸上自衛隊経験者)氏(注1)が安倍内閣において2014年12月24日~2016年8月3日に在任、森本敏(航空自衛隊経験者)氏(注2)が野田内閣(民主党)において2012年6月4日~12月26日に在任しています。※中谷元氏は、小泉内閣において防衛庁長官としても任命されています(2001年4月16日~2002年9月30日在任)。

 

注1…中谷元(げん)氏は、集団的自衛権の行使容認の閣議決定の後、安全保障法制を成立させる働きをしている。

注2…森本敏(さとし)氏は、ウィキペディアによれば、その発言・主張の説明で「イラク戦争では米国の立場を支持し、日本は積極的にイラクへの自衛隊派遣を進めるべきだと産経新聞で主張して2004年正論大賞を受賞。」と書かれている。著種は『イラク戦争と自衛隊派遣』など多数。

(参考)ウィキペディア「森本敏」 森本敏 - Wikipedia

 

○最後に、第66条第3項の「連帯責任」です。ここにある『連帯して責任を負う』とは、「行政権の行使について、内閣のすべての大臣が連帯して、(国会に対して)責任を負う」ということになります。

 行政権の行使とは別に、大臣の不祥事や失言等で個別に責任を取り、大臣を辞職されたり、また国会議員を辞職される方もいます。ただ1人、何度も何度も「責任は痛感している。」だとか「政治責任は極めて重い。」だとか、自身の責任を認めたり、責任を取る趣旨の発言をおそらく何百回している方であるにもかかわらず、いまだに国会議員を続けている方がいます。国会で付いたウソが事務局が認めているだけで118回もある方ですから、それ以上の責任を取る発言はあったのではないかと思います。まさにウソ八百のその人は誰かと言うと、そう、あの人、安倍晋三氏です。『責任を取る』と言えば、それだけで済まされる、免罪符になるとでも思っているのでしょうか? こんな人間が、国会議員を続けるだけでなく、現内閣(岸田内閣)も実際に動かしている状態です。個人的な不祥事だけでなく、行政権の行使についても数多くの失敗、国民への損失を加えてきた方であり、今後も憲法改悪などの働きをするおそれの強い人です。彼に現実に責任を取らせるためには、私たち1人1人の今後の行動にかかっていると言えます。