第43条【両議院の組織】両議院は、全国民を代表する選挙された議員でこれを組織する。

②両議院の議員の定数は、法律でこれを定める。

 

第44条【議員及び選挙人の資格】両議院の議員及びその選挙人の資格は、法律でこれを定める。但し、人種、信条、性別、社会的身分、門地、教育、財産又は収入によって差別してはならない。

 

第45条【衆議院議員の任期】衆議院議員の任期は、四年とする。但し、衆議院解散の場合には、その期間満了前に終了する。

 

第46条【参議院議員の任期】参議院議員の任期は、六年とし、三年ごとに議員の半数を改選する。

 

第47条【選挙に関する事項の法定】選挙区、投票の方法その他両議院の議員の選挙に関する事項は、法律でこれを定める。

 

第48条【両議院議員兼職禁止】何人も、同時に両議院の議員たることはできない。

 

≪私なり解説≫

○まず簡単に条文の解説をします。43条1項は、両議院の議員は①全国民の代表で、②選挙されたものであること、を要件としています。①は15条2項にあるように『議員(公務員)は全体の奉仕者であって、一部の奉仕者ではない』こと、そして②も15条等で定められているように選挙で選ばれた人を議員とすることを確認しています。43条2項にある「議員の定数」については、公職選挙法第4条第1項に衆議院議員の定数が、そして公職選挙法第4条第2項に参議院議員の定数が定められています。

(参考)公職選挙法第4条 衆議院議員の定数は、四百六十五人とし、そのうち、二百八十九人を小選挙区選出議員、百七十六人を比例代表選出議員とする。

2 参議院議員の定数は二百四十八人とし、そのうち、百人を比例代表選出議員、百四十八人を選挙区選出議員とする。

3 地方公共団体の議会の議員の定数は、地方自治法(昭和二十二年法律第六十七号)の定めるところによる。

○44条の「議員及び選挙人の資格」についても、公職選挙法で定めがあります。選挙人の資格は、選挙権として公職選挙法(以下「公選法」とします。)9条及び11条で、議員の資格は、被選挙権として公選法10条、11条及び11条の2、また当選人として公選法95条等による規定があり、その当選人が議員となります。

 また但し書には、憲法14条1項にある「人種、信条、性別、社会的身分又は門地」にさらに『教育、財産又は収入』が追加して書かれてあり、これらの事によって差別があってはならないということです。

(参照)公職選挙法 公職選挙法 | e-Gov法令検索

 

○45条、46条は議員の任期について定めてあります。45条で衆議院議員の任期は4年となっています。45条但し書の「衆議院解散」の是非については、憲法54条【衆議院の解散、特別会、参議院の緊急集会】で解説します。そして46条で参議院議員の任期は6年となっており、3年ごとにその議員の半数が改選されることになっています。

○47条の「選挙に関する事項の法定」についてもやはり、公選法で定められています。47条記載の投票の方法については、公選法36条により一人一票となっています。衆参両議院の選挙区による選挙は、どうしても「地縁、血縁、社縁」などによる自己への利益誘導の圧力が強まり、全体の奉仕者を選ばなければならないにも関わらず、一部の奉仕者を選んでしまうことが想像できます。一人一票制度はそのことを助長し、利益誘導の組織内候補者へ票を投じてしまうことになり、そういった利権組織へのパイプ役が当選し、本当に国全体、市民全体を考えて立候補する者はかえって落選しやすくなってしまいます。こうした弊害を是正するには、(開票集計作業の問題などもありますが)一人複数票制度も有効だと思います。

(参考)公選法第36条 投票は、各選挙につき、一人一票に限る。ただし、衆議院議員の選挙については小選挙区選出議員及び比例代表選出議員ごとに、参議院議員の選挙については選挙区選出議員及び比例代表選出議員ごとに一人一票とする。

○48条は、両議院議員の兼職禁止について定めてあります。同時に衆議院と参議院の職を兼ねることはできません。

 

≪考察≫『供託金制度』は憲法違反?

◎日本の「供託金制度」は、憲法44条但し書に反する差別であって憲法違反だと考えます。国政選挙についてのみ述べますが、衆議院小選挙区立候補の場合300万円、衆議院比例区立候補の場合600万円(選挙区との重複立候補の場合300万円)、参議院選挙区立候補の場合300万円、参議院比例区立候補の場合600万円です。これはあまりにも高過ぎなうえに選挙には他にも様々な費用が掛かることから、市民のための政治家を志そうと思ってもこの供託金が壁となり、立候補を断念せざるを得ないケースが多々あるものと思われます。

 一般的な成年者がこの選挙区の供託金300万円を貯めようと思ったら、どの位の期間がかかるでしょうか?そう簡単にはいかない筈ですし、しかも一定の得票率を取らなければその金額は没収されてしまいます。これは明らかに44条但し書の「人種、信条、性別、社会的身分、門地、教育、財産又は収入によって差別してはならない。」に反しています。この但し書は、≪私なり解説≫で前述しましたように憲法14条1項にある「人種、信条、性別、社会的身分又は門地」にわざわざ『教育、財産又は収入』を追加しています。これは選挙や立候補について『教育、財産又は収入』によって差別してはならないことを特に明記しているのだと思います。だとすれば、日本の供託金制度は、このうちの『財産又は収入』による差別であり違憲無効であるはずです。
 この供託金によってメリットを受けるのは誰でしょうか? この点について広島県のフリーライターである音木六花氏はブログ「政くらべ」で『メリットを受ける人は、既存の政治家で、デメリットを受けるのは、組織を持たない新人です。』と書かれています。また、組織力のある巨大政党ほどメリットを受け、小さい政党や政党に属さず立候補しようとする方々がデメリットを受けるのだと思います。そしてなんと、日本の供託金は世界一高いと言われており、Change.orgでは『諸外国の事例では、アメリカ、ドイツ、フランス、イタリア、ロシアなどOECD22ヶ国では供託金制度がありません。しかもそれらの国では、泡沫候補や売名候補の濫立による混乱はありません。また、供託金が存在する国であっても、イギリスやカナダでは10万円程度です。供託金制度の目的は泡沫候補や売名候補の排除とされていますが、それを判断するのは有権者の権利です。』(太字は原文のまま)と書かれています。

(参考)音木六花氏のブログ 日本の選挙の謎・世界で抜きん出て高い供託金制度! | 政くらべ (say-kurabe.jp)

(参考)Change.org キャンペーン · 東京地裁裁判長殿 : 立候補に300万円も必要なんて!選挙供託金違憲弁護団を応援します · Change.org

現在、選挙供託金違憲訴訟が最高裁で審理中のようです。2014年12月の衆議院選挙に立候補しようとしたが供託金のため立候補することが許されなかった埼玉県の原告が2016年5月に起こした訴訟で、2019年12月11日に東京高等裁判所は合憲判決を出しています。原告側は同年12月19日に最高裁に上告状を提出、翌2020年2月1日に上告理由書を提出しています。原告団の団長は、弁護士の宇都宮健児氏(これまでに東京都知事選挙に3回立候補している方)です。

(参考)選挙供託金違憲訴訟を支える会 - 選挙供託金違憲訴訟を支える会 (jimdofree.com)

なお、選挙供託金制度の合憲性については、平成11年に最高裁大法廷判決が下されているそうですが、判決には供託金制度を合憲とした理由が書かれていないとされ、どうしてか判決文は公開されていないようです。

 上記「選挙供託金違憲訴訟」についての記述に誤りがありました。訴訟代理人の1人である鴨田謙(ゆずる)弁護士のコラムで、「上記訴訟は2020年12月(11日)に上告棄却決定が下され裁判は終了した」旨が書かれていました。同弁護士の所属する埼玉総合法律事務所に2022年2月8日電話で確認したところ、鴨田弁護士に直接確認することが出来ました。高裁判決からちょうど1年後の2020年12月11日に最高裁は上告棄却し、上告棄却の理由書もないとのことで、『裁判例にも掲載されないだろう。』とのことでした。平成11年の最高裁判決文も見ることができず、今回の違憲訴訟も知らない間に終わってしまい、なんだか国民の知る権利が侵害されているように感じます。とは言え、誤りの訂正が遅くなりましたことお詫び申し上げます。上記違憲訴訟の経過につきましては、【コラム】「選挙供託金違憲訴訟のご報告」(下記リンク)をご覧願います。

(参照)【コラム】選挙供託金違憲訴訟のご報告(弁護士鴨田 譲) | 埼玉総合法律事務所 (saitamasogo.jp)

 

◎余談ですがじつは、かくいう私も2012年12月衆議院選挙に大分1区から立候補したものの落選し、供託金の法定得票率に届かず、そのまま供託金を没収されました。そのうえ、その法定得票率に達していればポスターやチラシ、看板等の作成費用が公費負担(一定額以内)されていたものも自己負担となり、その当時かなりの挫折感を味わったことを思い出します(供託金や公費負担制度については、ウィキペディアの供託金を参照 供託金 - Wikipedia)。そんな私ですが、供託金制度を憲法違反で訴えようとまでは決断できず、このような問題提起と訴訟を起こして頂いた埼玉県の原告や原告団の方々に感謝するとともに、不平等に対して訴えを起こさなかった自分を恥じ入っています。