第33条【逮捕に対する保障】何人も、現行犯として逮捕される場合を除いては、権限を有する司法官憲が発し、且つ理由となっている犯罪を明示する令状によらなければ、逮捕されない。

 

第34条【抑留・拘禁に対する保障】何人も、理由を直ちに告げられ、且つ、直ちに弁護人に依頼する権利を与えられなければ、抑留又は拘禁されない。又、何人も、正当な理由がなければ、拘禁されず、要求があれば、その理由は、直ちに本人及びその弁護人の出席する公開の法廷で示されなければならない。

 

第35条【住居侵入・捜索・押収に対する保障】何人も、その住居、書類及び所持品について、侵入、捜索及び押収を受けることのない権利は、第三十三条の場合を除いては、正当な理由に基いて発せられ、且つ捜索する場所及び押収する物を明示する令状がなければ、侵されない。

②捜索又は押収は、権限を有する司法官憲が発する各別の令状により、これを行う。

 

≪私なり解説≫

○一般に第33条から第35条は『被疑者の権利』と呼ばれており、これらをまとめて解説いたします。

○33条は、「現行犯逮捕を除いて、権限を有する司法官憲(裁判官のこと)が発する令状(逮捕状)によらなければ逮捕されない」こととして、国家から私たちの人身の自由が侵害されないように保障しています(刑事訴訟法第199条、200条参照)。ただし、刑事訴訟法第210条にある緊急逮捕は、逮捕状を必要とせず問題がありますが、後述のように最高裁は合憲としています。

(参照)刑事訴訟法(昭和23年第131号)

第199条 検察官、検察事務官又は司法警察職員は、被疑者が罪を犯したことを疑うに足りる相当な理由があるときは、裁判官のあらかじめ発する逮捕状により、これを逮捕することができる。ただし、三十万円(刑法、暴力行為等処罰に関する法律及び経済関係罰則の整備に関する法律の罪以外の罪については、当分の間、二万円)以下の罰金、拘留又は科料に当たる罪については、被疑者が定まつた住居を有しない場合又は正当な理由がなく前条の規定による出頭の求めに応じない場合に限る。

2 裁判官は、被疑者が罪を犯したことを疑うに足りる相当な理由があると認めるときは、検察官又は司法警察員(警察官たる司法警察員については、国家公安委員会又は都道府県公安委員会が指定する警部以上の者に限る。以下本条において同じ。)の請求により、前項の逮捕状を発する。但し、明らかに逮捕の必要がないと認めるときは、この限りでない。

3 検察官又は司法警察員は、第一項の逮捕状を請求する場合において、同一の犯罪事実についてその被疑者に対し前に逮捕状の請求又はその発付があつたときは、その旨を裁判所に通知しなければならない。

第200条 逮捕状には、被疑者の氏名及び住居、罪名、被疑事実の要旨、引致すべき官公署その他の場所、有効期間及びその期間経過後は逮捕をすることができず令状はこれを返還しなければならない旨並びに発付の年月日その他裁判所の規則で定める事項を記載し、裁判官が、これに記名押印しなければならない。

2 第六十四条第二項及び第三項の規定は、逮捕状についてこれを準用する。

 

○第34条については、芦部信喜氏著「憲法」の説明をそのまま引用します。

 「身体の拘束のうち、一時的なものが抑留、より継続的なものが拘禁である。刑事訴訟法に言う逮捕・勾引にともなう留置は前者に、勾留・鑑定留置は後者にあたる。拘禁の場合には、公開の法廷でその理由を示すべきことを要求することによって、不当な拘禁の防止がはかられる。」

※なお勾引は、「裁判所に引致した時から24時間以内」に釈放することとなっています。(刑訴法59条 勾引した被告人は、裁判所に引致した時から二十四時間以内にこれを釈放しなければならない。但し、その時間内に勾留状が発せられたときは、この限りでない。)

 

○第35条における「第33条の場合」とは、「第33条による不逮捕の保障の存しない場合」の意である(最大判昭和30年4月27日)とされています。「不逮捕の保障の存しない場合」は何のことか分かりづらいですが、結局「不逮捕の保障がない」→「逮捕されるべき状態」→「逮捕状を発するべき状態」のことを指しているのだと思います。ここで問題になるのが、現行犯逮捕であれば、捜索令状が不要だという解釈に法律上(刑訴法220条第1項参照)なっていることです。現行犯の場合は何の令状もなく国家権力が住居侵入できることになりますが、捜索をするにはやはり個別の捜索令状が必要だと考えます。

(参照)刑事訴訟法

第220条 検察官、検察事務官又は司法警察職員は、第百九十九条の規定により被疑者を逮捕する場合又は現行犯人を逮捕する場合において必要があるときは、左の処分をすることができる。第二百十条の規定により被疑者を逮捕する場合において必要があるときも、同様である。

一 人の住居又は人の看守する邸宅、建造物若しくは船舶内に入り被疑者の捜索をすること。

二 逮捕の現場で差押、捜索又は検証をすること。

 

○最後に、緊急逮捕(刑訴法210条)について考察します。まず、緊急逮捕を合憲とした判決(最大判昭和30年12月14日)がありますが、その判決要旨は「刑訴210条(の緊急逮捕)は、死刑又は無期若しくは長期3年以上の懲役若しくは禁錮にあたる罪を犯したことを疑うに足る十分な理由がある場合で、且つ急速を要し、裁判官の逮捕状を求めることができないときは、その理由を告げて被疑者を逮捕することができるとし、そしてこの場合捜査官憲は直ちに裁判官の逮捕状を求める手続を為し、若し逮捕状が発せられないときは直ちに被疑者を釈放すべきことを定めている。かような厳格な制約の下に、罪状の重い一定の犯罪のみについて、緊急已むを得ない場合に限り、逮捕後直ちに裁判官の審査を受けて逮捕状の発行を求めることを条件とし、被疑者の逮捕を認めることは、憲法33条規定の趣旨に反するものではない、されば所論違憲の論旨は理由がない。」です。この最高裁が書いた合憲判決文は、刑訴法210条の内容を書いた直後に、それを「厳格な制約」とし、その後表現を変えて刑訴法210条の内容を説明しているに過ぎません。例として『(前略)3年以上の懲役若しくは禁錮にあたる罪』→『罪状の重い一定の犯罪』、『急速を要し』→『緊急已むを得ない場合』

 例示の通り、判決文は合憲の説明にはなっていませんが、合憲説には、①「緊急逮捕も令状による逮捕」であるとする説(この説は、逮捕は幅のある行為(被疑者の身体を掴んでから一定の場所まで連行する)で、その逮捕行為の継続中に逮捕状の発行を請求する)などとする説や、②「緊急逮捕は、現行犯に準じて許される」とする説などがあります。それに対して違憲説は、「逮捕といった刑罰に近い人権侵害処分に追完(「後付けで正当化」の意)を認めることは、刑事訴訟の人権擁護的機能を放棄するもの」、「憲法が一つだけ認めた例外(現行犯)規定を法律で増やすことはできない」などと説明します。違憲説のほうが説得力があるように感じます。

 それでは、この判決の元となった事件、『森林法違反公務執行妨害傷害被告事件』がどのようなものであったかを説明いたします。

 

◎『森林法違反公務執行妨害傷害被告事件』とは

 被告Xは、2度にわたり他人所有の棕櫚(しゅろ)の皮を窃取した森林窃盗罪(当時の森林法第83条の罪 現行森林法第197条に相当(3年以下の懲役))の容疑(目撃者Cの通報による)で、巡査A・BがXの自宅を訪ね任意出頭を求めたところ、Xは病気を理由に出頭を拒否。巡査Aは被告人Xが証拠隠滅、逃亡のおそれがあると思い『任意出頭してくれなければ緊急逮捕する。』と告げたところ、女の人(判決文ではXとの関係は不明)が戸を閉めたため、巡査Aは『何故 閉めるのか開けろ。』と言ったが応答はなかった。その後5分位して戸が開き、Xは「つつじの棒」を持って巡査Aの頭に殴りかかったところ、巡査Aは体をかわし、被告人Xと両巡査は組み打ちとなり、そのまま高さ3尺(約90cm)の崖下に落ち、Xは組み伏せられて手錠をかけられる。その間に、巡査Bは「Xに引つ掻かれて右頬挫創、口腔粘膜挫創の加療二週間を要する傷害を受けた。」とされる。その後、被告人Xは森林窃盗罪、公務執行妨害罪、傷害罪で起訴され、第一審(徳島地脇町支判昭和24年)でXは有罪(懲役10ヶ月)、控訴審(高松高判昭和26年7月30日)は控訴棄却したので、Xは上告したが上告審(最大判昭和30年12月14日)も上告棄却とした。なお、棕櫚皮を590枚と120枚、Xが窃取したとされる。(以上、高裁判決文、憲法判例百選Ⅱ<事実の概要>より要約)

<この事件の考察>

○まず、棕櫚(しゅろ)の皮が、当時、捜索令状や差押令状を持たないまま警察官が容疑者宅を訪ね、出頭を要請し、また出頭に応じなかったばかりに『緊急逮捕』を告げなければならないほどの貴重品であるのか、非常に疑問があります。そしてそれを証拠隠滅したり、逃亡したりしようとしたことが警察官の主観的観測で、『緊急逮捕』の要件である、「急速を要する」ような事態であるのか、これもまた非常に疑問です。さらに言えば、「つつじの棒で殴りかかった」という表現が適切であるのか甚だ疑問ですし、高さ3尺(約90cm)が「崖」と呼べるのかも疑問です。誇張的表現を用いて、被告人Xの非行を印象づけようとしている文脈であると感じます。

 この最高裁判決時の最高裁長官は、田中耕太郎氏です。この田中耕太郎氏を調べてみると、意外な事実が判明しました。あの『砂川事件』判決を指揮した長官なのです。『砂川事件』の概要については省略しますが、この田中長官とダグラス・マッカーサー2世(砂川事件当時の駐日大使 マッカーサー連合国軍最高司令官の甥にあたる)の密約により、地裁判決を破棄し差し戻すという治外法権の愚行を犯しています(このような人物がその後、勲章を授与されています)。

 これらのことから考えると、緊急逮捕の最高裁判例は『判例』と呼ぶにふさわしくなく、『緊急逮捕』を認めるかどうかは国会などできちんと議論し、認めるとしても濫用されることのないように厳しく条件付けされることが望ましい、と思います。田中耕太郎氏が最高裁長官を務めていたような、法治国家と呼べないような時代には戻りたくありませんよね。しかし現実的には、それに近いことが行われています。既存の法律解釈をぶち壊して、定年延長させた黒川弘務前東京高検検事長の例などです。黒川氏自体は、マージャン賭博で辞任しましたが、法を司る検事長が違法に定年延長されるような時代です。定年延長を可能とする法改正は、また国会で審議される予定となっており、これが通れば政権の子飼いの検事長(又はトップの検事総長)が誕生し、政治犯罪が見過ごされ、横行することとなります。法律は、政治家や公務員にこそ厳しく適用されなければならない筈です。そうでなければ、モラルが崩壊します(し、すでに殆ど崩壊していますが)。緊急逮捕が出来るのなら、安倍前総理を公職選挙法違反(222条3項であれば、懲役又は禁錮6年以下)の容疑、又は背任罪(刑法247条 5年以下の懲役)の容疑で、黒川前東京高検検事長を常習賭博罪(刑法186条 3年以下の懲役)の容疑で、速やかにするべきでしょう。安倍前総理については、公選法違反と刑法犯が併合加重できるのなら、さらに重罪となりますので、一刻も早く逮捕すべきです。

(画像左:棕櫚、画像右:棕櫚の皮、画像下:つつじの枝(及び葉))

 

(参考)

森林法違反公務執行妨害傷害被告事件判決(高松高判昭和26年7月30日)全文

https://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/655/024655_hanrei.pdf

森林法違反公務執行妨害傷害被告事件判決(最大判昭和30年12月14日)全文

https://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/792/056792_hanrei.pdf