今年1月末から5泊7日の日程で、欧州を訪問しました。ILC国際リニアコライダー建設実現のための調査で、4つの県議会の交渉会派からそれぞれ1人が参加したほか、岩手県の佐々木副知事、誘致実現を目指す経済団体から鎌田副会長、立地関係自治体から一関市の佐藤市長、大船渡市の渕上市長も参加。官民で組織された初めての現地訪問団が結成され、素粒子物理学の最先端研究施設など訪問し、研究者らと意見交換してきました。
海外行政視察として県議会の派遣を受けた、つまり税金を使った視察であり、その報告書は県議会に報告し、HPにも掲載されています。こちらで改めて、この報告書の私の所感について紹介します。
文中に出てくる用語について
CERN スイスのジュネーブにある素粒子物理学の国際的な先端研究機関で欧州原子核研究機構のこと。
FCC-ee CERN内で検討されている全長100キロに及ぶ円形加速器装置。
X-FEL ドイツ・ハンブルグのドイツ電子シンクロトロン研究所(DESY)内にある欧州X線自由電子レーザー施設。
IDT ILC推進の国際推進チームのこと。議長はスイス連邦工科大学ローザンヌ校名誉教授の中田達也氏。
以下が報告書に掲載された私の所感部分です。
欧州の研究者コミュニティから見えるILCの現在地。
とりわけ日本での建設については、表向きには遠ざかりつつあるものの、その足元をみれば決して悲観するものではないとの印象をうけた調査となった。
1 財政的課題への考察
現在の関心は、CERNで浮上するFCC-eeであることに間違いはないものの、建設には最低2兆5千億円がかかるとされている。研究者間で高まる期待とは裏腹に欧州各国では経済減速が続き、ドイツなどはすでに巨額の拠出金の支出に後ろ向きであるとされている。
今回視察したX-FELは欧州各国が建設を支援したものだが、多くをドイツが拠出し、他の国の分担割合はそれぞれ1~2%に止まる。そうした中、ロシアは25%の拠出をしていて存在感を示しているが、現在の国際情勢では同程度の拠出を望むべくもない。
加えて、孤立主義を強めるトランプ大統領の登場により、今後欧州各国は安全保障の再構築が議論されており、科学分野への支出環境は厳しさを増している。
一方、我が国も経済状況は依然として厳しいものの、FCC-eeに比較すればILCの建設コストは4割程度で済むこと、早期の成果が期待されること、そして円形に比べて直線加速器は施設規模を順次拡大できることから、成果と財政出動のバランスがとりやすいことなど、優位性がみられる。これは欧州の研究者も認め、期待しているところだ。
2 研究者と日本政府のコミュニケーション
問題はこうした欧州の研究者間の認識と日本政府の間にミスコミュニケーションがみられることだ。IDTの中田議長の発言にあるように、研究者の意図と政府の理解の間に齟齬が生じ、それがILC建設実現の障壁となっていると言わざるを得ない。
科学の発展は世界と未来に貢献するものだが、そのイニシアティブをどこが取るのか。まさに中田議長の発言は的を射る。
岩手の誘致活動は欧州の研究者間でも認知されていることは救いだが、今後の活動はどこに力点を置くべきなのか。
国会議員で組織された誘致議連は存在感を示せず、会長不在となって半年が過ぎようとするが再構築の動きは寡聞にして存じ上げない。
3 安全保障の観点から
ILCは国益にかなう。
科学技術立国には先端技術研究が欠かせず、次世代のキーテクノロジーの開発は日本経済の復活に欠かすことが出来ない。まさに経済安全保障であり、国際的な研究機関がアジア、とりわけ日本にあることは国際的な安全保障上も極めて重要であるから、安全保障関係費を財源にILC建設を進めることも検討に値する。まさに国益そのものであり、世界と未来と平和に貢献するILCとの認識を共有することは重要だ。
今後、欧州発の素粒子物理学のニュースが頻発することが予想されるが、大きな課題を抱えることを理解して対応することが必要だ。研究者の真意を政府に正しく理解するための支援や我が国に建設されることが国益となることを、財源も含めてさらに政府に対して提言していくべきだ。
4 政治決断を後押しする
すでに政治決断の時期に入っているものの、国会議員の議連の活動が停滞していることを踏まえ、各党に対してさらに働きかける必要もあり、各党の県連レベルと連携した動きもさらに必要であろう。
いいずれにせよ、残された時間は多くはない。欧州が財政的課題を乗り越えて投資する可能性もある中、日本の動きを加速させることは何よりも肝要だ。世界の科学技術の進展に日本が貢献したいという意志は今でも表明できるはずである。当然、科学技術の分野には素粒子物理学も含まれ、実験施設としてのILCも検討対象になるというロジックも必要ではないか。
ILCは世界と未来に貢献する。改めてこの認識を新たにした視察である。
最後に、今回の視察調査、要望活動に対し、議員各位には御同意を頂いて参加できたことに心からの感謝を申し上げ、報告とする。