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今年の夏に『KinnPorsche』が終わったあと、私にとって拮抗するほどの心を持っていかれるような作品はまだ現れてないけれど、佳作と感じるものは幾つかあり、そのひとつが『ViceVersa』です。現時点(2022年9月18日)では第10話。TELASA配信と時差があるので物語中盤以降のネタバレはしないようにしつつ、その魅力は何処にあるかを考えていきたいと思います。

全12話で第10話まで来ました。

監督はX Nuttapong Mongkolsawas。

『Theory of Love』の監督です。

この2年はプロデューサー業が忙しかったようで監督するのは2年ぶり、『Theory of Love』のスピンオフ『Stand by Me』以来のようです。

ViceVersaの魅力の一つは、この監督のカラーでしょうか。

『Theory of Love』でもそうでしたが、友人達全員で何かを作り上げていく喜び、達成感。そしてそこには終わりがあります。映画製作も舞台製作も、その中に様々な障害があるのですがひとつひとつそれを乗り越えてていき、その度に訪れる幸福感と歓喜、そして完成の満足感と共にその季節は静かに幕を閉じていくのです。そういう時間は永遠のようで、でも実はとても儚くて。そういった描写が恋愛パート以上に胸を打ちます。

 

『ViceVersa』は異世界に来てしまったTalayとPuenの物語です。今まで生きてきた世界と少しだけ違った世界で、そして違う人間関係の中で、その世界で与えられた人生を生きながら、どうやったら元の世界に戻ることが出来るのか、という物語です。

このドラマの魅力として1番に来るのは、TalayはTessの人生を、PuenはTunの人生を引き継いでいくという設定にあると思います。

単純に異世界へ行ってしまった物語なら、その人物はそのままで、TalayならTalayという存在のままで異世界で生きぬいていく姿が描かれるでしょう。しかしTalayと異世界にいたTessは入れ替わっているのです。TalayはTessの家族と友達とTessの歴史を持っています。そこでTalayは再び元の世界に戻った後のために、自分だけでなくTessにとってもよりよい人生を生きようとします。

元の世界では俳優だったPuenは、この世界では売れていないが夢だけはある脚本家志望の青年、そして彼は失恋している。歌も下手だ。そんな冴えないTunだったけれどPuenが持っていないものを持っていました。それを得たPuenの幸福といつかはそれを失うことの恐れ。このあたりの描き方はずっと記憶に残る胸を打つシーンになっていたと思います。

 

そして次に来るこのドラマの魅力は、なんといってもTessとTunを取り巻く友だちです。Tunの脚本仲間だったUpとAouの人の善さとか面白さは大事な魅力の一つ。Talay/TessとPuen/Tunを含めた4人での「Friend Credit」という設定は、『Theory of Love』で卒業後にも映画製作会社を設立することで継続していくThird・Khai・Two・Boneの関係を思い出します。

Tessのお金持ちな友達KitaとFuseはもともとはやんちゃなTessの友人なだけあってすぐにお金で解決しようとしたり、お金持ち独特の距離感の近い鷹揚さを持ってたりします。しかし回を重ねるごとに「え、この人たちもめっちゃいい人じゃん!ていうかTalay、もっとKitaやFuseを大事にしてあげて?」と思えてくるんですよね。しかしKitaとFuseがTessに対して持っていた友情は、最初のうちは今一つTalay/Tessの心を動かさなかったようです。あんなに飲んだくれた彼を介抱してくれても。恋愛のアドバイスをしてくれても。しかし同じ目的のために努力する仲間になったときに初めて、Talay/TessにはKitaやFuseに対する本当の友情が生まれたようです。

その友人たちを演じるのは、Neoの他、『Enchante』『Star And Sky:Star in My Mind』『Eclipse』とGMMの近作で友人役として登場する顔ばかり。こうやって視聴者はGMMの新しい俳優たちに愛着を持っていくのねー。

 

 

さて、そこでまた生まれたこの作品の魅力、それは違う世界で育まれていく愛情の描写です。

TalayとPuenは異世界でまずは同じく異世界から来てしまった同志たちと出会い、同じ境遇を共にする者同士の友情が生まれます。そしてTessとTunが持っていた友達は、Talay/Tess、Puen/Tunにとってかけがえのない友達になっていきます。

そして現在のTalay/TessとPuen/Tunを支えてくれるのはTessの、そしてTunの家族です。ふたりにとってそれはこの数年間だけの関係であり本当の家族ではないのですがその両親たちはそれを知らずに愛情をかけてくれています。

本当の友達ではなかった人たちとの間で育んだ、本物の友情。

本当の家族ではない人たちと交わした、本物の愛情。

TalayとTunが元の世界に戻りたいと願う時、彼らはここで育んだ友情と愛情と、そして彼らのこの世界で達成した人生の成果を手放さないといけません。

これねー。この設定ねー。

ほんとどうなるの?!

現在残すところあと2話なんですが、それがどんな形のハッピーエンドを迎えても、それでも別れは必然なのです。それを考えると・・・・!

いやいや、まだいらすとやさんに泣いてもらってる時ではないわ・・・!

 

さて引き続き『ViceVersa』の魅力はゴージャスなゲストです。

なんですか?この無駄な豪華さは。観てない人へのお楽しみということで誰が出てるってことは書きませんが、パロディあり意外なゲストキャストあり、そして某俳優の完全なる友情出演というかカメオ出演は!

 

オーナメントオーナメントオーナメント

 

いろんなBLドラマ観てて私は「スパダリの物語」があんまり好きじゃないんだなあって思ったんです。

かわいくてドジッ子の主役と、背が高くてかっこよくて高スペックで、最初はちょっと傲慢で、でも徹底的に主役に優しく愛してくれるスパダリとの物語。

むかーしからある少女マンガの定型パターンです。

BL作品にはそういった少女マンガ定型パターンの流れを汲む作品は多くあります。

どうも私はそういうのが昔から苦手で・・・。

どうしても嫁とか養うとか一生大切にとか守ってあげるとか・・・、そういうニュアンスやキーワードが苦手なんですよ。

ところで少年誌、例えば少年ジャンプの雑誌キーワードは「友情・努力・勝利」です。

ふと思ったのですが、BL作品を多く輩出してるGMMは、「昔からの少女マンガ定型パターン」のBLではなく、実はこの「友情・努力・勝利」を持つ少年マンガ定型要素をBL作品に取り込んでいるのではないかなと思ったのです。

これまでのいろんな作品を思い出すと、スパダリが登場する物語って・・・うーん・・・朝からずっと思い出してるんだけどせいぜい、『2gether』ぐらい? や、サラワットというキャラは微妙にスパダリとは言えない気もするけど、一番近いのはそれかしら。

GMMが輩出する多くの物語は、主役たちの愛情の行方と同時に周囲の友情と、そして彼らの努力や成長、その結果を描く作品が多いことに気付きました。そして主役二人の存在の仕方が対等なんですよね。そこがとても好きなポイントです。

 

さて『ViceVersa』。

この後、TalayとPuenは、そしてこれまで描かれていなかった異世界にいるTessとTunはこの先どうなっていくんでしょう。考えたらTalayとTess、PuenとTunだけが、体を共有しながらも現実には一度も会うことのできない関係なんですよね。それもまた面白い・・・。

最後まで楽しみに観ていきたいです!

 

オーナメントオーナメントオーナメント

あ、主演であるSeaとJimmyについて何も書いてなかった!!

ふたりとも初主演。特にSeaは・・・プレッシャー大きかっただろうなあ・・・。そしてJimmyだって外科医の仕事もやってるの?どうなってるのタイの俳優事情って。

ふたりともこの先もがんばってハートのバルーン