わたしの母は26歳のときに結婚し、28歳のときに第一子であるわたしを出産しました。
 
 
妊娠がわかって職場に報告すると、母はすぐに退職することに。
 
というのも、母の仕事は歯科衛生士で、患者さんのレントゲンなども撮ることがあります。妊婦を働かせることはできない、という歯科の判断でした。
 
 
いまのように産休・育休という制度が浸透していなかったこともあると思いますが、あっという間に専業主婦にならざるを得なくなってしまったそうです。
 
 
 
わたしは当時の母と同じくらいの年齢になってから、ときどき考えることがありました。
 
 
専門学校を卒業して、7年前後(いまのわたしの社会人歴より長い)つとめていた歯科衛生士という仕事。
 
 
両親は当時まだ子どもをもつ具体的な計画はなかったらしく、わたしは思いがけずできた子どもだったそう。
 
 
そんな、まだ覚悟も強い希望もないなか妊娠してしまって仕事を辞めることになってしまって、母はキャリアを手放すことはつらくなかったのだろうか、と。
 
 
だって、いまのわたしならたぶんつらい。子どもは大好きだし子育てもしたいと思っているし、子どもができたらすごくうれしい。ただ、突然の妊娠で仕事を失うというそのこと自体は、結構な衝撃だと思うんです。 
 
 
大晦日におせち作りに勤しむ、母と小学生のわたし。
 
 
でも、少し前に母にそのことを聞いたら、母はなんてことないという顔で言っていました。
 
 
 
「私は良くも悪くも当時自分の仕事に誇りをもっているわけではなかったし、仕事を辞めること自体は全然平気だったよ。
 
 
妊婦の時期は人生でいちばんゆったりした贅沢な時間を過ごしていて、ほんとお気楽だったなぁ」
 
 
 
母はわたしのために泣く泣くキャリアを手放した、わけではなかったんだ。
 
 
 
それがわかって、わたしはすごくほっとしました。
 
 
母はもともと家庭の事情で大学進学をあきらめて専門学校に入ったという経緯もあり、自分の仕事にこだわりがほとんどなかったそうです。
 
 
だけどここ数年、ようやく仕事に誇りを感じるようになってきたそうで。やりがいを感じるようになった、と話してくれることがあります。
 
 
語弊のないように書いておきますが、歯科衛生士さんはそもそもすごく素敵で大事なお仕事だし、母も以前からそう思っていたと思います。ただ、「選ばざるを得なかった仕事」から、「やっていてよかった仕事」にだんだん変わってきたのだろうと思います💭
 
 
母は、わたしが小学校高学年になったころに週数日のパート勤務として歯科衛生士の仕事を再開し、その後だんだん勤務時間を増やし、わたしが大学進学をするころにはフルタイムの出勤になりました。
 
 
いまは、週3日歯科衛生士、週2日蕎麦屋(定年退職した父が開いた蕎麦屋)の女将として働いています。
 
 
母がいまも仕事を楽しんでくれているといいな、と思います💭