シンガポールで最初に私が働くことになったのは、

旅行会社ではなく「人材紹介会社」だった。


シルバーウィークの休暇を利用して一週間シンガポールに滞在し

受けることのできる面接はとにかく受けまくった。


シンガポールで現地就職しようと試みる人は

誰もが必ず利用する人材紹介会社。


私の場合、その紹介会社数社に履歴書を送り、

それをシンガポール中の会社に

バラまいておくようにお願いしておいた。


面接のアポが取れた会社の、本番の面接に行く前に

紹介会社のところに出向いて顔合わせをする。


メールのやりとりではイメージできなかった部分をクリアにしたり

直接会って、その会社の傾向など

詳細を打ち合わせしたりすることのできる

貴重な面談の時間。


面談や面接はいろんな人と出会えたり

お話することのできる新しい経験の時間。


私自身も人とお話することは苦手ではなかったが

やはり今後の将来がかかっているとなると、

私なりに緊張もする。


面接も1日目、2日目が無事に過ぎ、

1次面接でダメだった結果もあれば

2次面接に来るようにと、だんだんと

手応えの出てくる4日目くらいだっただろうか。


一足遅く登録しておいたある人材紹介会社に面談に行った。


いつものように履歴書をチェックして、

それからローカルと英語をしゃべって下さいという。


5分ほどローカルのスタッフとたわいもない会話をした後に、

そこの会社の社長が自ら出てこられた。


なんと、私をこの人材紹介会社で採用したいとの申し出であった。


まるで、今まであまり話したことないクラスメートから

突然プロポーズされたような衝撃だった。


真面目な感じの会社で、その日はスタッフの全員を紹介され、

仕事の内容もざっくりと説明があった。


まるで、安定した真面目な公務員から、親や親戚を全員紹介され、

これから住む部屋までを見せられた気分だった。



突然のプロポーズに戸惑いながらも、決して悪い気はしない。

とにかく一旦気持ちを落ち着かせて、ひとまず帰った。


人材紹介会社で働くイメージをしてみた。


人と人をつなぐ仕事。

いろんな人と交わることは大好きだ。

新しいことにチャレンジするのも楽しそう。

人生はたった一度しかないのだから

少しでも興味のあることはやってみたい。


「成功」の反対は「失敗」ではなく

「何もしないこと」。


いつも自分に言い聞かせていた。


答えは必然と出ていた。


「やってみよう♪」


そう思って翌日、さっそくその会社に二つ返事で回答した。

なにしろ、人は愛するより愛される方が幸せなのだから。



東京に帰ってからはもう秋も本番。夏服の整理を始めた。

9月も後半に入るとめっきり寒くなっていく。いいタイミングだ。


国内の引越しならまだしも、海外への引っ越し。

東京に来たときにはほとんどなかった荷物も

7年間も暮らしていると、たいそう増えるもの。


最終的にはスーツケース2個分の荷物が

シンガポール行きに抜擢された。


あとは思い切って捨てるのみ。


クローゼットの洋服はボランティアの団体に郵送し、

世界各国で買った小物も、

特に思い入れのあるプレゼントも、

買い物で乗っていた自転車も、

添乗時代に読んでいた本も、

欲しい人にはあげて、

あとは全部捨てた。


今まで一緒に生活しているものを寸断することによって、

新しい自分との出会いもあるかもしれない。

どうせ海外に行くのだったら

これを機会に新しい自分作りのきっかけになるかもしれない。


新しい洋服を買って着ているだけで

その日一日がわくわくするように。


シンガポールでは新しい環境で、

上品なお嬢様を気取れるかもしれない。


ただ何となく何の変化もなく移住するのはもったいないと思った。

折角だから、いろんなプラスの方向に

自分の人生の流れを変えてみたい。


生活の変化のタイミングは、いろんなチャンスにあふれている。

そう信じてみたから。





*シンガポールの食材で作ったなんちゃってお寿司