今回はクリスマスシーズンのドイツとオーストリアへ。

「スカンジナビア航空ビジネス体験」というツアータイトルで、
お客様は全員Cクラスへ、そしてエコノミーな私はひとりYクラス。
「Nikkiちゃん、かわいそうね」というお情けの言葉をいただく。

いえいえ、お客様に四面楚歌の10時間よりも、
私ひとり狭いエコノミーで快適ですの。

添乗員たるもの、お客様に寝顔を見せてはいけない。


さあ、この長い機内の時間を利用して、
唯一行ったことのないボンを勉強せねば!

カーテンをまたいだお客様を前方に、
リラックスした機内でのプライベートな空間が始まる。
 

「お疲れ様で~す」

通路を挟んで隣に座った人が声を掛けてきた。 
同じ会社の添乗員さんだった。


こんな人、うちの会社にいたっけな?


見たことないけどこちらもにこやかに挨拶を返した。
それが間違いだったと気づくのは数分後。
 
彼女はグループの人数が多すぎるとか、行程がハードだとか、
オプションにガイドが付いてないとか、
いろんな愚痴を私に叩き、しまいには自分はシーズン添乗員で
うちの会社は嫌いだとか愚痴を一気に吐きまくった。

もう頭が痛くなって私はビールを飲んで寝たふりをした 。


そんなわけで、言い訳をするわけじゃないけど、
この新しい土地、ボンの地図を頭に入れるのが精一杯の
窮屈な機内となった。

かつての東ドイツの首都、「ベルリン」の観光は
よくツアーに組み込まれていて資料も充実しているが、
西ドイツ側の首都だったここ「ボン」は
お隣の街「世界遺産ケルンの大聖堂」に圧されて
どのツアーもスルーしてしまいがちな小さな街。

個人的にはドイツの観光はこんな小さな街を巡るのが好き。
いつも新しい街に行くときは程よい緊張と楽しみがあってワクワクする。


飛行機は11時間のフライトのあと、
無事にフランクフルトアムマイン空港に到着する。

成田からの大抵のヨーロッパ便は夕方に到着するので、
そこで一泊してから体を慣らして翌朝から観光は始まる。

ドイツの運転手は気難しくて融通が利かないと
添乗員達は嫌う人が多いのだけれど、
私としては時間を守ってくれて道をよく知っていて、、
何よりも英語が上手な運転手が殆どなので、
仕事としてはとても有難いと思っていた。

イタリアやスペインのいわゆるラテン系の運転手は
添乗員達には人気だけれども、私にはどうも苦手だ。
確かに気の良い人が多いのだけど、
手配の時間には遅刻するわ、道は間違えるわで、
ヨーロッパに住んだこともない私が道を指示して
ドライバーが運転する光景がよくあった。

ドイツのドライバーは優秀だ。
安心できる。


爽やかな冷たい朝の空気に、
ドライバーは今回も真面目そうで良い人で、気は楽だった。

約束の市庁舎の前にバスを停めてくれれば、
あとは徒歩観光は大丈夫。地図もばっちり頭に入った。

ふふんのふん♪ 私って、究極の添乗員かもしれない。
 
「さあ、ここが市庁舎だ!」

停められた場所はなんか頭の中の地図と違う。
 
あれ? ここどこ?

「市庁舎だ!」

「違うわよ、絶対違う!」

ああだこうだと口論を繰り返すが、さすがゲルマン民族。
一度言った事は頑固。私より頑固。

「もういいわよ、時間がもったいないからここで降りるわ!」

一体ここはどこ? 
私は誰? 
誰か、助けて~~!

知らない街の知らない道端で急にバスを降ろされ、
野生の勘とたどたどしい足取りで
何とかベートーベンの家は見つけることができた。
しかし、パンフレットのミュンスター広場というところの
ベートーベンの像が見つからない! どうしよう!!

地図をチラ見しながら更に歩くと、ある広場に出た。

ドイツには広場がたくさんあるのでありがたい。

だけど、この冬の寒い中、たくさんの冷や汗をかいていたに違いない。

とっさに言ってしまった。女優Nikkiの一言。

「こちらがミュンスター広場です。
今現在はクリスマスマーケットの準備で
ベートーベンの像は残念ながら博物館へと撤去されています」

最後の切り札を言ってしまった!!


お客様は何の不信感もなく、

「そうですか~、こんなハプニングもいい思い出ですよね~。」

地図を持っている方はおらず、完全に女優Nikkiの言葉を信じ切って
どこの博物館に移動したのか問いただす方もおらず、
私のボンの観光は救われたように終わった。


そんな気が引け目もあってか、何かお詫びをしなきゃと、
バスの中でもいつも以上に私のトークは炸裂する。

こうしておりこうさんにしているお客さんには私の特選ネタをもご披露する。
バスの中での笑いも一層愉快なものにしてみせる。
エコノミーな私は決して物やお金でお詫びなんてしない。

この時期のヨーロッパからのフライトでは、
飛行機の進行方向左側、座席表示では‘A’の北極圏側に
オーロラが出没するときがある。

最初の機内食が終わり、まったりと眠くなる頃、
飛行機のモニターで見るとだいたいロシア上空、
西シベリア低地の付近が高確率。

客室乗務員はオーロラが出てるからって、
わざわざ寝た子を起こすような真似をしない。

むしろ機内でアナウンスでもかけたら大騒ぎになって、
席取り合戦になることも乗務員は心得ているのだろう。

「お客様~、見えても他のグループの人には内緒ですよ~。」
そう釘刺しをして、飛行機に乗り込む。


本日も緑の滑らかな巨大カーテンが、左側の窓に大きくたなびくのであった。