添乗員というものは常に時差と闘わなくてはいけない。



ヨーロッパのツアーに8日間出ると、2日東京に滞在してその後また10日間ヨーロッパ方面へ出るということが多々ある。これは添乗員の体にとってとても優しいスケジュール。



ヨーロッパに滞在している時間がながいのだから、東京ではわざわざその時差を直すことなく次のツアーに出発する。


だから東京滞在中は朝方まで眠れず、起きるのは昼過ぎ、そしてまた夜更かしをする、といったサイクルだ。


ヨーロッパの添乗が続き、突然アメリカ方面がアサインされると、体が慣れず非常に辛い思いをする。特にアメリカ西海岸方面はとても辛い。


そういう状況もアサイナーはわかっているので、ピークシーズンは特に一度ヨーロッパに出すと、しばらくはヨーロッパ方面の添乗を連打でアサインしてくれる。


そんなわけで一時期、日本とはほぼ時差のないニュージーランドに連添の時が続いた。



ニュージーランド航空で首都のオークランドまでは11時間。夜間のフライトの後、朝から観光が始まる。そしてほぼガイドなしで北島から南島の観光となる。


8日間の日程を終え、最終日はオークランドに戻り、一泊してから翌朝のフライトで東京に帰る。





オークランドの夜は遊びに行くところもないし、自然派のツアーのお客様もこれと言ってナイト観光に行きたいと言ってくるお客様もいない。


なので、最終日の夜はたいていホテルで洗濯をする。

東京に帰ってからゆっくり休めるように、ツアー8日間分の洗濯物をホテルで済ませてしまうのだ。


このメルキュールホテルにはランドリールームがあり、コインランドリーと乾燥機が設置されている。いつも私はここを貸切状態で夜な夜な占拠していた。

大声で歌をうたいながらのくつろぎの時間。


アイロンまでかけて、ばっちりスーツケースに出発当日と同じ状態で入れる。洗濯機が回っている間、添乗報告書も書き上げ、あとは飛行機の中で休むだけ。


そうして成田まではフライト中に少しワインを飲んで機内映画を見ながら楽に過ごすのが私の唯一のリラックスタイムだった。


何度も何度も同じNZ便に乗ると、乗務員たちも顔なじみになってくる。



彼らのベースはオークランドで、きっとこの成田便に乗ってから2日ほど東京に滞在し、オークランドに戻る。そして再び同じ成田便に乗るときが、ちょうどツアーと同じ復路の日程に重なる。


そういうわけで、なぜかいつもAndrewという乗務員と同じフライトだった。

彼はとても高飛車で愛想も良くなかった。機内食で「シーフードがいいの」と頼んでも、「ないから」と冷たくあしらわれ、私もあからさまに嫌な態度を取っていた。


毎度、飛行機の搭乗口で彼にお目にかかると、



I know you!!



また来たのか?くそ添乗員!!

またあんたの担当~?はぁ~。


でも知っている顔に会うと、ちょっぴり嬉しい。

お互いにニヤリと笑って挨拶をかわす。


だけど、私のお客様が困っているときには誠心誠意で対応してくれていた。私にはつっけんどんな対応でも、お客様にちゃんと対応してくれていればそれでいい、そう思っていた。


そんなフライトも約11時間で成田空港に到着する。税関を通ると日常が戻ってくる。


飛行機のドアが開き、成田の空気を吸い、携帯電話の電源を入れる。

待ってましたとばかりに携帯の着信音が鳴る。


コールしてきているのは、会社の番号だ。

嫌な予感がする。


Nikkiちゃ~ん、おかえりなさ~い」



会社のアサイナーのとても甘い声。

本当に嫌な予感がする。


「はい、いま成田に降りたところです」


「あのさ~、お願いがあるんだけど、、。いまニュージーランドから帰ってきたところだよね?あのさ~、そのまま夕方のそのフライトでまた同じツアーに行ってくれないかなぁ?一人添乗員が倒れちゃって。」





「え~!!!、今からですか???え~~!!」





「物理的に行ける?」





「あ、、、はい、荷物もすべて洗濯も終わってるし、あ、、はい、そうですね、大丈夫です。」





そしてそのまま夕方の成田のカウンターで受け付けを始める。また、あのAndrewもさすがに私がこの飛行機でまたオークランドへとんぼ返りするとは思ってもいないだろう。





ピークシーズンとはそんなもの。





あの頃は、若かった。










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