ドイツ国内でビールの醸造所は1300箇所にものぼり、それぞれの地方でオリジナルのビールが製造されている。

かつては修道院の地下で作られていたという話は有名で、断食の時もビールは「液体のパン」と言われ、遥か昔から人々の喉を潤し、栄養補給をしてきた大切な飲み物だったという。


「今回は何ビールにしようかしら?」


ドイツの楽しみはこれに尽きる。


必ずどのホテルにもフロントの横に小さなBARが併設されている。
500mlのグラスジョッキでだいたい2ユーロくらいで数種類の生ビールを提供してくれる。場所が変わればご当地にしかないビールがあるので、ホテルにチェックインすることが楽しみになる。


ドイツや他のゲルマン諸国のツアー手配は,朝早く始まり夕方7時にはホテルで夕食を始めるパターンが多い。ラテン系の国、例えば夕食が8時以降にしか手配できないスペインやフランスなどのツアーに比べ、添乗員にとっても体が楽である。


また、ドイツのドライバーも時間に忠実すぎるくらいにきめ細やかな時間配分を守ってくれるので、私としてもドイツの添乗に行くことはありがたかった。


私のお気に入りは小麦50%以上で作られたドイツ定番のヴァイツェンビール。白く濁ったフルーティな香りがすることが特徴。ベルギーなどにも多くあるビールだ。

毎日一人で晩酌して、翌日の仕事に必要なカロリーを蓄える 。
たまに、お酒が好きなお客様と一緒に夕食後にフロント横のBARで待ち合わせて、うんちくをたれながら楽しいひと時を過ごすこともあった。


ツアーの最終日になると、私を探すときはまずBARを覗きに来るお客様もいらっしゃったくらいに、私のBAR好きは浸透するくらいだった。


ロマンチック街道の中の魅力的な街のひとつ、「ニュルンベルク」は小ぶりのソーセージで有名。
夕方になるとジューシーな煙を出した屋台が出始めて、地元の買い物客もそちらの匂いに流れ出す。

その街のハイライトとなる市庁舎や大聖堂を案内した後は、できる限りフリータイムを取って、自由に散策できる時間を作る。


観光中のお客様はやはりソーセージよりも市庁舎などの建物にご興味があるようで、私一人ソーセージ屋台に釘付けになる。

食べたい!!食べたいったら食べたい!

「ではお客様、こちらで少しフリータイムをお取りします。20分間お写真など自由に撮って下さい。」

そして、私はひょっこりいなくなる。
そう、行き先はさっきのあの屋台。 

「トライ ニュルンベルガー ビッテ!」

ソーセージ3本を頼んだ。
 
「うわ~、いいね~ グートよ、おじさん」

ソーセージは炙り焼きで、油がジュウジュウして、結構なご満悦。
これぞドイツの至福の瞬間。
あとは、ホテルに戻ったら、ヴァイツェンビールをくぅ~~~と喉に入れるだけ!

満足げに、そして得意げに集合場所に戻り、いっそう爽やかな笑顔で再度観光をスタートした。

その日のホテルの夕食は普通のポークステーキ。添乗員にとって何度も来ることになる定番のロマカイ(ロマンチック街道)ツアー。

このホテルで食べるこの味も少し飽きていたころだった。
夕方の屋台のソーセージに満足した私はあまり食欲がなかった。いざとなったらいつもスーツケースに積んである非常食のどんべえもあるし・・。


お夕食では前菜のサラダだけをつまんでいた。

「あら、Nikkiちゃん、お夕食は召し上がらないの?」

おせっかいの優しいオバサマが私に突っ込んでくる。

「あ、わ、私、あまり食べないんです」

「ソーセージなんて早飯してません!! 」

「あの時ソーセージよりも市庁舎見てたでしょう? 」

「たとえ一緒にあの時ソーセージを案内したら、どうしてこのソーセージを夕食に取り入れないのか、とか言うでしょう??」

「それでお客様おひとりだけもし屋台にご案内したら、他のお客様がやきもち妬いちゃいますよね?」

なんてことは言えなかった。

本当はドイツの美味しいところをたくさん教えてあげたい。

だけど、パンフレットに書いてあるところを観光をして、決められた食事をご案内して、ツアーの手配通りに業務を遂行させることが添乗員の役割なのです。
 
ごめんなさいね、お客様、、、。。




*ニュルンベルグのソーセージ屋台


*バンベルグの古い町並み