ぼくはキング 巨大で先は尖り 誰も近寄らせぬ迫力

あの日の事 未だ覚えてる

大勢がきちんと並んで 胸を張り 銃剣持って 足を高く上げ

ずんずんずんずん 勇ましく逞しく力強い 

否そうは思わない 気色悪いだけ・・

キャタピラーがぐるぐる 地下からぼくを運んでく

ああ いよいよぼくの出番か・・

 

広場に着けば 腹の出たおじさんが 笑顔で迎えてくれた

おじさんは 幾人かの男と握手を交わす

「技術・・ 研究・・ 成果・・」

「この力強さは、ほれぼれとしてしまう・・」

聞き慣れた言葉が また聞こえてくる

なぜだろう

おじさんは ぼくのボディーをなで うれしそう

「わが宝よ 思い切り飛ぶが良い」と激励する

なぜだろう

 

ああ これから ぼくは のどかな空に向かって行く

「おーい、君の元へ飛んでいくからな」

ぼくにとっては恋人だったの

澄み切った空を見上げると 突然雫が・・

これは・・ 恋人の涙・・

どうして ねえどうして 何か悲しいことでも・・

人間のエゴ・・ でも 受け容れねばならないの

その答えに ぼくは・・

10 9 8 7 6・・

躊躇する間もなく カウントダウンは始まる

ぼくのお得意の炎噴射が いきり立つ勇姿
3 2 1 0

おじさんの緊張した顔が ぱーっと目に飛び込んできた

でも 恋人の顔はきれい 透き通った青のまま

よし 行くぞ!! 尖った頭で恋人を切り裂く

すぐに 風たちの叫びが聞こえる

ぼくはひたすら 頂上をめざした

でも その意気込みは 初めだけ

すぐに 落っこち始めた おお・・  
まて まて 待ってくれ

 

 

ぼくを待っていたのは 海

強い衝撃 荒波 水圧 激しい抵抗

それでも 突き進むことしかぼくには出来ない

 

あわれ・・ これが己の真の姿なるか・・

虚しさと後ろめたさに包まれ やっと欺瞞と欲望の果てに気づく

あわれ・・

ぼくは 海底で大爆発を起こし こなごなになった
 

残された心で ぼくは 珊瑚と魚群と海底のことを思いやった

すまぬ 許してくれ これはワナだったのだ

珊瑚と魚群は知らぬ顔

ぼくの大事な恋人よ もう会えないのか・・
いつしか
やさしく魚たちが寄り 口づけをぼくにかます

許してくれたのか

ただ夏が過ぎ去っていった・・・