今日は、参議院の選挙がある。投票所に8時半に行く。

若者の将来に思いを馳せ、少子高齢化社会の改善に全力を尽くせる人に

1票を投じようと思う。

若者の死。将来のある大切な人が事故で亡くなる。

どんなに、つらいことか・・・

『あの青い空と海を』より『明子の死」

 

 青天の霹靂。
まさか・・・明子が・・・石井さんが・・・
死んだ・・・ ありえない・・・ 何かの間違い・・・
四人の乗った車が空き家に突っ込み大破。飲酒運転・・・猛スピード・・・
全身が激しく震え、立っていることもままならない。どうしよう・・・ 俺・・・
脳はいっぱいいっぱい、胸は張り裂けそう。ああーっ、だれか・・・
じっとしているわけにはいかない。震える手で服を着替え、震える足で寮を飛び出した。
 とりあえず、あけぼのに行ってみよう。右も左も見ず、バイクを走らせた。
交通事故で明子が亡くなった・・・

とても信じることは出来ない。何かの間違いであることを祈った。
 あけぼのに到着すると、ドアが開いている。オーナーが、スーツに着替えておられるところだった。
「あの・・・洋一です。すみません、事故のことで・・・」
オーナーは振り返って、はっという顔をされた。
「君か・・・」 オーナーは、「はあ・・・」とため息を漏らされ、うつむかれた。
「テレビの報道で観たのか・・・大切な命が亡くなってしまった・・・四人も・・・若者のいのち・・・俺の責任さ」 
オーナーの顔はゆがみ、今にも泣き出しそう。
「あのー、明子は、本当に明子は、死んだのですか」
「ああ・・・ 取り返しのつかない事に・・・ 朝早く明子さんのお母さんに連絡を入れた。今頃、安置所にて、御遺体と面会されていることだろう」
「す、すみませんが、事故の原因は・・・」
ぼくはためらいながらも質問した。オーナーは、詳しく説明してくださった。
 昨晩は石井さんの誕生日で、店は誕生祝いで盛り上がっていたらしい。みんなかなり酔ってしまって、その勢いでコザまで飲みに行こうとなった。それで、明子とその友だち、そして石井さんとその友だちの四人が車に乗った。石井さんが運転していた。酩酊状態で、ものすごいスピードが出ていた。結果、空き家に突っ込んで、車は大破・・・四人は即死・・・
「車に乗れず、死なずに済んだあけぼのの客が居て、その人から聞いて事故に至る経緯が分かったのさ。俺はこれから警察に行ってくる。事情聴取を受けて、説明しなければならない。そして、遺族の方々に会って、謝罪をしなければならない。それから、今後のことを話し合うことになるだろう」
「俺も、警察に行きます。何か出来ることがあれば・・・」
「いや、君には関係のないことさ。君はずっと前に店をやめて、昨晩もここに居なかったのだから・・・気になるだろうが、今後の対応は俺に任せてくれ」
オーナーにびしっと断られた。事情聴取を受けるだけで心配いらないと、励まされた。
 

 ぼくは、寮に戻った。まだ、信じられない。いや信じたくない。明子が、あの明子が あんなに溌剌としていた明子が、一瞬にしていなくなってしまった・・・
明子の死をくい止められず。何の役にも立たない。

このでくの坊、べらぼうめぇ・・・
二人で過ごした日々・・・ ああ、あれは・・・ 一転、絶望のどん底へ。
ぬるり・・・ 体の力が全部抜ける。転がるように床に崩れ落ちた。
ああ、愛する人に二度と会えなくなってしまった・・・
あああ、おれは、なんてことをしたんだ・・・
泣いても泣いても、苦しんでも苦しんでも、時間は逆戻りしてくれなかった。
 

 もの悲しいピアノ曲が流れる葬儀場。
四人の死を惜しむ合同葬儀が行われた。関係者が多数参列し、尊い若者の命に、哀悼の誠を捧げた。俺はただ呆然とするばかり。葬儀が終わった。家族の方々にうつむきながら弔意を述べた。葬儀場の外でひとり悶々と立ち尽くした。
逢いたくても逢えない虚しさ。湧き上がってくる悲しみ。そればかりではない。
ああ、あの時、あんなことを言わなければ・・・
「あけぼのに来ませんか」と言った俺のひと言が、愛する人を死に至らしめてしまった。
明子をあけぼのの店員にした俺の愚言がすべての原因。運が悪かったでは済まされない。大切な人を死に追いやった俺は、重罪人。殺人犯。
ああ、明子よ、俺を恨んでいるよな・・・
恨んで恨んで、憎しんで、殺してやりたいと思っているよな・・・
どうしよう、これから。俺もそっちへ行こう・・・
 最愛の人は、この後荼毘に付される。
今さら何を言っても、どう反省しても、明子は永遠にこの世から去り、戻っては来ない。俺の前に二度と姿を現すことはない。
俺は、俺は、本当に明子を愛していたのだろうか・・・
「わああーっ」
涙を振りまきながら、葬儀場から逃げるように走り出した。近くの石段に駆け上がると、明子との思い出が、走馬燈のごとく脳内に流れてゆく。トリホリでの出会い。あけぼのでのひととき。そして万座毛や渡嘉敷島のビーチでの思い出・・・美しく輝いていた明子の姿が、ぼくの心を完全に埋め尽くしてしまった。あの明るさ。あの笑顔・・・
明子を、明子を取り戻したい。それができぬなら、死んでしまおう。
「明子は、どこに、どこに行ってしまったあ・・・」
わめき叫びながら、何も誰も見ようとせず、猛然と突っ走った・・・

 魂は抜け、二枚貝のように心を閉じ、布団に潜り込んで泣く。
自殺しよう・・・ どんな死に方がいい・・・
一週間、また一週間・・・一体何日過ぎたのかも分からない。死ぬことしか考えていない。寮の連中も、学科の連中も、心配して見舞いに来てくれた。誰が声を掛けようが、叩こうが、びくともしない。俺はふとんに潜り込んだまま、泣きわめくばかり。
「おい、洋一、いつまで泣いてるんか。動き出せ」
同室の直人が、ついに、俺のふとんをはぎ取った。
「死ぬんだ。俺は、死ぬ・・・」
「よし、そんなに死にたいんなら死んじまえ」
 ついに直人が切れた。俺の胸ぐらを掴み、一発パンチをくらわした。
「なにをー」俺は、怒り狂ってやり返そうとするが、力が入らない。へにゃへにゃと床になだれ落ちてしまった。
「死なせてくれー」泣きわめきながら、やつの胸ぐらを掴み、激しい怒りをぶつけた。
「死んだところで何になる、生きていれば洋一の想いが叶うだろ」
語気を荒げて直人は説得する。そのまましばらく掴み合っていた・・・