連載中、たくさんの方にお読みいただき、嬉しく思います。

第4回となりました(全7回)。最後までお読み下さいますよう御願い致します。

 

(前回の続き)

 

たちまち、ふたりは目を回し、気を失ってしまった・・・
魂は肉体を離れ、すーっと舞い上がっていった・・・
ブラックホールを通り抜け、時空を超え、宇宙の果てを突き抜けてしまった・・・

 

 こみ上げてくる哀しみ 不慮の災難 あの日の出来事
 凄惨な光景 愛する人を 住むところを 失った悪夢
 虚しき心乗せたクルーズ船 ひそやかに闇のかなたへ
 色とりどりの花びら舞い散る中に 微かな希望見えて
 乾いた空 あなた飄々と憎しみのウイルスにささやく
 寂しい者よ夢咲かそうとささやく 宴の主役はあなた
 閉じこもった心宥める眩しいライト 未来への一歩だ
 さあストロベリー娘 ボブヘアーにトンボの目をして
 熱いディスコビート 弾むこころ 揺れるイヤリング
 植木すいかを片手に 一文字のぐるぐるがけデコポン
 辛子れんこんタピオカ 夢中ナウいグッピー泳ぎ廻り
 むつごろうの五里霧中 有明海苔のネクタイを締めて
 アクアリウム舞い上がり 万華鏡の星々燃える桃源郷
 ステンドグラスに エメラルド・ルビー・サファイア
 恐いものなんてないさ 笑顔あふるあの場所へ行こう
 悠久の風に乗り 太陽の化身となりて 心あなた想う
 あれ いなくなっちゃった ふたり どこいった

 

 聞き慣れない老婆の声が脊髄に響いてくる。みょうな朗読・・・
 ドーーン ドスーン
「あいたたた・・・ 」 「あいたーっ、腰がいたーい」
地面に激しく叩きつけられ、強い衝撃に襲われた。
「あっ、ここは・・・ 」 「あれ・・・ どこだか分からない・・・ 」
「おはよう。私は若菜」 「おはよう。私は智恵美」
呑気なふたりを、小鳥のさえずりと緑の草原が迎えてくれた。けれど、見渡す限り、家もない。人も居ない。我にかえれば、すぐに、現実に直面することとなる。
「元に戻れなかったのだろうか・・・ 」
「ああ・・・ 漱石先生と出逢った後、また何処かに・・・ 」
 時計を見ると五時半。不安を抱えたまま辺りを見渡した。じっとしている訳にはいかない。立ちふさがるゴロゴロ石を転がし、開けた視界には、硯の形をした湖があった。湖には、小さな帆掛け船が・・・  帆の上に白い小鳥が停まっていて、ふたりのことを見ている。湖の周辺には葦が生え、奥には、ウラジロの葉がたくさんあった。湖畔にカコーンと音が鳴り響く。水琴窟。その心地よさに押されて、ふたりは、湖の先にある山を登って行った。木の階段を登りきると、山頂に着いた。苔むした大きな石・・・ 人工的に山頂に置かれた巨石群のように思われる。ふたりの目の前にデーンと立っている。
「ねえ、智恵美。何だろう、この石は。とても巨大だけど、丸みもある。きっと人間の手でこの山頂に置かれた石だわ。魔力が潜んでいるようにも感じる」
「うん。苔むして古そうだから、たぶん大昔の人が遠くから運んで来た祭祀用の石かもね。ほら、ここら辺、霊気が漂っているみたい」
不思議がって巨石を眺めているふたり。だが、日は西に傾きつつある。募りゆく不安・・・ そこに、腰の曲がったお婆さんが・・・ 登ってきた・・・  不思議の国の遣い・・・
「あのー、すみません。此処はどこだか分かりますか」
若菜がすぐにお婆さんに尋ねた。
「ああ・・・ 此処はね、金峰山の近くの東門寺たい。これは、拝ケ石巨石群と呼ばれているんだよ。不思議な霊力を宿す石・・・ 」
「あっ、金峰山の近くなのですね。良かった・・・ はあー」
「助かった。戻ってたんだ。ふーう・・・ 」
安堵のため息を漏らすふたり。
「それで、あのー、今、何年ですか」
「はあ? 今年かね・・・ 二千二十一年さ」
「本当ですか? やったあ、ああ、良かった。智恵美たすかったー」
「良かった、若菜・・・ 私たち元の時代にかえって来れたんだ」
老婆は、ニヤリと笑った。たしかに、まちがいなく、現代の空気が在る。たちまち、元気を取り戻したふたり。両手を握り合い、飛び跳ねてはしゃいだ。
「わあー、見て、すごい。この石は随分高くそびえている」
「十メートルぐらいありそう。こんな石、どうやってここまで持って来たのかなあ・・・ 」
「ねえ、若菜、こっちに来て。こっちの石は、ぜーんぶ、丸っぽくて綺麗な形をしているよ。不思議だね」
「ほんとだ。球のような巨石だね。そう言えば、縄文時代のストーンサークルが秋田県とかにあるって、歴史の時間習った気がする。それと同じじゃ?」
「あっ、それそれ。霊力を持つストーンサークル!」
ふたたび、老婆がニヤリとして、ふたりに教えた。
「おまえさんたち、そこを離れよ。サークルの中央は、神さまが天より御降りになられる聖なる場所じゃ。それが、昨日のことじゃった・・・ 竜巻が起こり、稲妻が乱射し、磁場は狂ってしまって・・・ 消えた人あまた・・・ ああ、お・そ・ろ・し・や~」
「ええっ・・・  きゃーっ」
ぶるぶるぶる 震え出したふたり・・・ 手をこすり、老婆に助けを求めた・・・
 構いなく、老婆は手招きをした。すうーっ 引き寄せられる歩み。「えっ、なんだろう・・・ 」手招きに応じ、半信半疑で老婆のあとをついてゆく。山路を下って、ずーっと行く・・・
「なーに? ここは、誰の家?」
ふたりは、驚いた顔をして見合った。着いた処は、古民家。藁葺き屋根に、太い柱の古い家。
「さあ、なかへお入り」 老婆は、平然とした顔で言った。
「ここは、お婆さんのお宅ですか?」
「前兆ありて、選ばれし者よ・・・ きっと、運命(さだめ)を感じることだろう・・・ 」
「えっ、何ですか・・・ お婆さん、あなたは一体・・・ 」
そう言うた途端、老婆の姿は消えた。探せども、姿は何処にもなかった。
「おばばは・・・ あの人は・・・ 」
「あれ ・・・ おかしい・・・  私たち、キテレツなことばかり・・・ 」
乙女心にぁついてゆけない予測不能な展開。