みなさん、新年おめでとうございます。

2020年、令和2年がみなさまにとって素晴らしき年になりますように、

元日、お祈り致しました。

私も、今年もまた趣味の作文に勤しんで参る所存で御座います。

出版したいのですが、その費用を持ちません。

3冊の本を今年こそは出したいと思うのですが・・・

無理でしょうか・・・

元日の昨晩、NHKの『ブラタモリ・鶴瓶の家族に乾杯』見ました。

ちょうど、久高島、斎場御嶽を二人が出向いて取材していました。

私が書いた小説の『あの青い空と海を』に重なると思い、

なんだか懐かしい気分で拝見致しました。

お正月なので、ここにその一節をご紹介致します。

 

 

 「次は、斎場(せーふぁ)御嶽(うたき)へ レッツゴー」
バイクに跨がり大度浜海岸を出た。先を争うかの如く、我らは農道を暴走する。横着な走行は相も変わらず。やがて国道に出ても、三列横隊で突き進む。明らかに道路交通法違反行為だが、ぼくらに罪悪感や羞恥心はまるでない。さらにスピードを上げ、ジグザグ走行を繰り返す。これから行く斎場御嶽は、琉球の創世神話に登場し、最も格式のある由緒正しい聖地である。長年、琉球王国の祭事が行われ、大きな鍾乳石に囲まれた神聖なる空間。しかも男子禁制の地である。古代から斎場御嶽におられる神さまから、間違いなく天罰が下るであろう三人は、到着するやいなや、整然と駐車場に原付バイクを止め、何食わぬ顔をして斎場御嶽に入って行った。こんもり茂る木々の小径を通る。夏なのに暗くて涼しい登り坂。強烈な太陽光線も、此処には届かない。茂る緑葉が、春風を呼んでいる。葉影が、さやさや、さわさわと揺れると、涼しさが増す。薄暗い空間に、薫風の香りが漂う。枯れた落ち葉を踏みしめ、石段を登ると、やがて、巨大な鍾乳石が姿を現した。三角岩だ。地元では、さんぐーい、と呼ばれている。
「おおっ、この岩は・・・」
聳える岩を見上げ、ただちに、巨石の直線の重なりに驚いた。これが、自然の造形美か・・・直線と直線が余る勢いで空に突きだし、ぼくを圧倒する。静寂がぼくらの頭上に降りてきて、青童をそおっと包む。その三角岩の下に佇み、此処が神聖なる場所だということは、無法者のぼくにもすぐに理解できた。それ故、いつの間にか、礼儀正しい落ち着いた好青年へと変わっていた。他の二人もぼくと同様に、好青年へ。それにしても、静かだ。石の表面を撫でると、潜んでいた古代の空気が、浮き出てきたように感じた。上方を観察しながら、ゆっくりと三角岩の下を通過し、別れを告げる。さらに歩いて行くと、大きな鍾乳石の切り立ちが在った。その下に祭壇があって、小さな壺がいくつか置かれていた。説明書きを見ると、この下から金製の勾玉と祭祀用の貨幣が出てきたとのこと。聖処は、神人(かみんちゆ)が祈りを捧げてきた場所だ。瞬間、神々しい空気が、ふわあっと三人の肌を撫でて、また上空へゆっくりと戻って行った。霊気が一気に辺りに漂ってきた。此処で、神人が、一心不乱に祈りを捧げ、豊作と無病息災と平和を祈祷していたんだ。琉球王国の民と国を守るために、懸命の拝みをしてきた。その王家の思い、そして、長い年月行われてきた神人の祈りの儀式。その意味を汲み取って、ぼくたちは、正しく伝えていかなければならない。今、三人の胸にしっかりと刻まれて、神妙な顔は、直立する巨大な一枚岩に向き合う。両手をあわせ、頭を垂れた。三人とも横柄な態度を反省した。
「品格ある振る舞いと謙虚さを必ず身に付けます」と神に誓った。
 祈りが済むと、ぼくらは、来た道を戻り始めた。三角岩を抜けて、しばらく歩いていると、「此処から最高の景色が見えるとばい」
田代が指さす方向に目を向け、ぼくと藤本は立ち止まった。木々の間から視界を見下ろした。
「うわあ、綺麗だ・・・」
御嶽の神聖なる佇まいから一転、眼下には、眩し過ぎるコバルトブルーの海が広がっているではないか。あまりの海の輝きに、言葉を失った。目を細め眺めていると、青春のそよ風が頬を撫で、気持ちが良い。きらきら、きらきら、そよそよ、すーーっ。拡散する光で、心までもが洗われる。眩しすぎる海。その海に久高島が浮かんでいる。久高島そのものが、鮮やかなエメラルドグリーンに輝いている。
「久高島は、神の島たい。大昔から、巫女たちがあの島に渡って祈りを捧げてきたとばい。平和な世と人々の幸せを願って・・・それは、今も変わらん。巫女さんたちが祈る姿が見えないか、よーく目をこらして、島の表面を見てんやい」
田代が言うので、目をこらして見たが、巫女さんの姿は見えず。修行が足りないせいだろうか。ラグーンの奥にのんびりゆく白い客船は見えた。仕方なく、傍らの説明書きを読んでみた。久高島では [ 男は海人、女は神人 ]となり、神の出身地ニライカナイに近づこうと営んできたとある。そうか、あの平べったい島は、古代からずっと、人々の暮らしを見守り、喜怒哀楽をともにしてきたのか。眩いばかりの美しさで、行き交う人々を優しく包んでいるんだ・・・あまりのスケールに、ぼくのちっぽけな心は島に吸い込まれてしまった。
「やっぱり、沖縄の海は、綺麗だね」
やさしく素直になって、ぽつり呟く。藤本も田代も神妙な顔をして頷く。ぼくらは、この大いなる風景を相当な時間見続けた。
「はあー、この美しい海がずっと残されていくのだろうか」
田代は真剣に呟いた。
「ホンマ、この海だけは、何とか残さなあかん。あの島の神は、人間の本性、欲や悪智恵をよくご存じなさかい、眩い青さを突きつけて、戒めとなさっておるんとちゃうかいな」
藤本は珍しく真面目なことを言った。ぼくは、二人の言葉の重さを受け止めようとせず、これから訪れるであろう恋愛チャンスを考えてしまった・・・彼女ができたら、ここで肩を抱いて希望を語り合いたい。そして、愛の告白・・・怪しからんことを考えていると、「さあ、精一杯青い春を謳歌しなさい」と久高島さまが仰った。神さまはぼくを応援してくれているのさ。
 ぼくらは、丘を下り、原付バイクで移動。純心を取り戻したぼくらは、縦一列に並んで大人しく走行する。次は、新原ビーチに向かった。到着すると、原付バイクを然るべき場所に整然と停めた。下りてみると、そこは、真っ白な砂浜がずっと続く海岸だった。たった今、神聖な気持ちを頂いたばかりのぼくらに、うってつけの場所だった。
「し・ろ・い・な・あ」
ただそれだけ。言葉にならない。いや、何も言う必要がない。島ぞうりの跡だけが点々と砂浜についてゆく。ぼくが岩場の方へ近づいて行くと、浸食された石灰岩の大岩がぽつぽつと在り、潮溜まりがいくつか待っていてくれた。
「わあっ、ヒトデやナマコじゃないか」
見たことのない派手な色彩のカニやナマコ、ヒトデなどが所狭しと這いずり廻っている。ぼくは、触ったりつついたりせず、そっと生き物たちの様子を観察した。カニはじっとして動かない。ナマコはつのを出して少しずつ動いている。ヒトデは文様が鮮やかで、表面の繊毛がはっきり分かった。
「みんな仲良しだね、いつまでも達者でな」
そう言うとまた砂浜に戻って行った。たちまち真っ白な砂たちが、ぼくを誘惑し虜にした。座り込んでよく見てみる。いろんな形の形骸がある。燃える太陽に染まることのない真っ白いかけら。穏やかな波は、無数の砂たちと共に規則正しく揺れ動きを繰り返す。
 ザー、ザーッ ザザザーッ、ザーッ
ぼくの視界全体が真っ白になる。足元の白い砂を手の平で掬ってみる。砂粒の中に、両端尖った砂や星形の砂を見つける。
「すごい、よくこんな形ができたもんだ。不思議だなあ」
もっと思いっきり手のひらで掬うと、さあーっと砂がすべり落ちてゆく。何度も何度も手のひらで掬う。夢中で掬うと、いつの間にか童心に返っていた。綺麗な星砂は、きっと願いごとを叶えてくれるはずだよ。今度は、形の整っている星砂を指で持って青い空に翳して見た。星砂は、キラキラと煌めいて、無二の宝石となる。かざした手を下ろしていくと、透き通った海水の青が背景となって、宝石が輝きだした。すごい。この瞬間を、写真に撮って残しておきたいが、カメラを持っていない。では、目のフィルムに焼き付けておこう。岩礁の逞しさ、コバルトブルーの海の色、砂浜の粒の白、潮溜まりの穏やかさ、賑やかで鮮やかな生き物たち・・・ひとつ一つ目に焼き付けながら、ビーチを歩いていると、現実が飛び去り、思考が止まり、異次元の時空へと、ひとり来てしまった。今、ぼくは、この世界の主人公として、このホワイトとコバルトグリーンを完全に独り占めできるんだ。誰にも遠慮すること無しに、この贅沢を自由にすることができるのさ。よし、もっともっと、白を掬って放ってやるさ、それーー・・・おお、白よ、降り注いでくれて、ありがとう。もっともっと、コバルトブルーに触れるために、泳ぐのさ・・・バシャバシャ、バシャーーン、ザワザワザ、ザバザバザ・・・いつまでも何処までも永遠に泳ぎ続けてみたい。おお、海よ、永遠の海よ・・・そう思った時、
「おーい、メシ行こうぜー」
風情のない藤本の声が聞こえてきた。ヤツのだみ声で、やっと我に返った。
「待て待て待て、待ってくれー」