ある日、
昔の仲間との忘年会に出席した。

久しぶりの友人との、たわいもない話に盛り上がり、気分のいい時間を過ごした。

2時間程経ち、酔いも程よくまわっていた私は、トイレにたった。
酔いがまわっていたため、少しフラフラしながら個室席の前を、一部屋二部屋歩き……
!?
三部屋目のあたりから、聞き覚えある声で立ち止まった。
振り返えると、見覚えのある顔があった…元旦那だ。
一気に酔いがさめた気がした。

元旦那は一緒に飲もうと誘って来た。
もちろん私はNOと答え、足早にトイレに向かった。

「サイアク」こんなとこで会いたくなった。
元旦那とはDVで離婚している。友人との楽しい時間が台無しなる。
あの席の前に行きたくない。そう思ったが、そこを通らずには自分の席に戻れない。
「よし、自分の席まで走ろう」友人達がたくさんいるところなら、あの人も何もしてこないだろう。
と思い、いざGO!
…だが、なんとトイレから出たすぐそこに元旦那がいた。
そして、このキチガイ女!なめやがって!などと大声で暴言の数々。

どうしよう…私は昔の記憶がよみがえり、恐怖で動けなくなってしまった。
そのとき
「大丈夫?」すぐ先の個室から顔を出し、声をかけてきてくれた男性がいた。
それに気付いた元旦那は、ぶつくさ文句を言いながらも席に戻っていってくれた。

私は、みっともない姿を見せた気がして、声をかけてくれた男性に「ありがとうございました」と頭をさげ、足早に店の外に出た。

良い人がいてよかったと思う気持ちと、過去の嫌な思い出とが頭の中を占めた。

ー少し歩こうー

しばらくすると小さな公園があった。
私は、その公園のブランコに座ってみた。

「泣きたい」
こんな時思いっきり泣けたら良かったのに。そう思った。
でも泣けない。どうしてだろう。あの日から痛みや辛さを絶え続けていたら、気がついたときには涙も出なくなってしまっていた。あれから数年、変わらず泣くことはない。
でも、未だあの恐怖はよみがえる。もし思いっきり泣けたら、きっと本当の次に行けるのかもしれないのに…
そう思いため息をつく私。

数十分ブランコに乗り夜空を見上げ物思いにふけた。

そろそろ戻らなきゃね、みんなが心配してるだろうし。
店までまた少し歩いた。


「あ、さっきの人…」
助けてくれた男性がちょうどお店から出きたらしい。
私に気付いてまた声をかけてきた。
「大丈夫?」
二度目の大丈夫を言われてしまった。

思わず笑ってしまった。

すると彼は「良かった。泣いてるのかと思ってたから」と言い微笑んだ。
そうだよね。普通は泣くね…
やっぱり私はおかしくなっちゃったのだろうか。

「泣けないんですよ…私…」

「・・・」真顔になり無言になる彼

「あ!すみません!今のは気にしないでください。さっきは本当にありがとうございました!」
私最低!初対面の人にしかも助けてくれた人に何言ってんの!迷惑だよ。
私は、また頭を下げお店の中に入ろうとした。
すると、
「きっと泣く場所を見失っただけだよ。泣く場所を見つけたら自然と涙が出てくるよ。」
そう彼が言ってきました。
そして、またニッコリ微笑んで「見つかるといいね」と言い、軽く手を振り私に背を向け歩いて行きました。


…泣く場所?見失った?

私はなぜかまた笑ってしまった。
そして、なぜか「そうだね」って思えた。

きっといつか自然と涙が出てくるよね。
「ここだ、私の場所は」って、私の心で感じたら、きっと泣いちゃうんだろうな。
そして、本当にまた人を愛し、次に進んでいくんだろうな。

彼の言葉を聞いて、
私はとても優しい気持ちなり、そして強い気持ちにもなれた。
大丈夫、きっと私は大丈夫と思えた。


あの人とはあれから一度も会っていない。
でも今でも私の記憶に残る素敵な人。

たった数分の間に出逢い別れ。数分の会話だけ。
でも、他の誰より私の心のヒーローとなった。







そうそう、あの言葉を聞いた後私は、
お店に戻り、元旦那の席の前を堂々と歩いていた。
何か言われたが、もう私は立ち止まることはしなった。

そう、きっとこれが私のスタートライン。
泣く場所を見つける為の。