スピンがちぎれていたのに
栞を忘れて
ページを覚えている
開いた本の隅に記されている数字
念力するようにじっと見つめ
だが、なんと元気を出して自転車をみがいたことだろう!
僕にはやっと彼らの愛国心の動機がわかった。
自転車旅行がしたいのだ!海まで!
彼女がひきつけられているものを見抜いて
その反対のものを示し
自分があたかも一つの家具を断念して
彼女の気持ちに譲歩したように見せかける
恋愛結婚→理性結婚?
たといガラス蓋があってもチーズは猫にとって
現実であるのと同じように……
本を閉じて電車を降りる時
編み込みするように重なり合う人人人の間
落とさないようにページの数字を
幾度かまじないのように唱える
隣の町会議員の家で
気の違った女中が屋根に上がって行ったり来たり
見物人の間でそれを動転しながら見ている僕の青白い顔
近くの見世物小屋で大急ぎで
木馬を一回りやってくる腕白小僧
マグネシウムがパッと燃え上がったようだった
「まだ生きているよ」の声に
ついに意識を失って父の肩からころげ落ちた
電車を降りたら細かなあれこれ
今晩のおかず、明日のお弁当
仕事の網の目、先読み競争
誰かの言葉、交わしたつもりの約束
お手玉しながら歩いているから
その間
あるのにないことになっている隠し扉みたいに
ずっと忘れているのに忘れないように
カーテンの向こうに隠した数字を
失くさないように
電車に乗って
再び本を手に取れば
まじないの効果を確かめる
今日一日の名前と顔と数字の雪崩の中から
何か特別の、クリームパン一個分くらいの
重さを持った数字を探し出す
女中の幽霊
絵画研究所
郵便配達夫
ものがたりの間に挟まれた
栞代わりの数字が今日の記憶を縫っていく
※レイモン・ラディゲ『肉体の悪魔』より
新潮文庫 新庄嘉章訳
素敵なカバー 池田満寿夫
Le Diable au Corps
字下げの段は、抜粋と要約と心の声のモザイクになっております。