さかのぼること5年前。

 

経年劣化で浴室のタイルにヒビが入っているものがあり、気になっていた。

折れ戸付近に集中している。

乱暴に扱ったつもりはないが、開け閉めする際、負荷がかかるのだろう。

 

コーナーのコーキングも両端からめくれてきて、そのめくれたところが黒くなり、掃除が行き届かないのも問題だと思っていた。

 

放置すればするほど後始末が悪くなるのはわかっている。

ハウスメーカーのメンテナンス担当に連絡をいれ、お越しいただいた。

そのタイルの交換とコーキングをし直してくださった職人さんからの指摘で、折れ戸の枠にヒビが入っていることを知った。

 

職人さんが「応急処置としてコーキング剤で埋めましたが、早いうちに折れ戸を交換した方がいいです。10万円くらいでできると思います。」とおっしゃってお帰りになった。

 

10万円。

出せない額ではないけれど。

埋めてくださったならいいか・・・

 

母が6年前に他界し、出費がかさんでいたのも決断を遅くした。

膵臓がんがもとで、肝臓や副腎に転移。手術の後の度重なる入院。

骨にも転移し、入院中に病院内で転んで大腿骨骨折。

歩行が困難になり家で暮らせなくなり、老人施設に入居。

杖をついて歩くから車いすになり、ついには寝たきりになった。

結構なお金がかかり、自分の貯金が底をついていた。

 

そこからさらに妹と遺産相続。

 

妹はそのころ、子宮肉腫の全摘出手術を受け、経過観察を始めたころだった。

これからお金がかかるのはわかっている。

私一人で親の面倒をみたのは事実だが、ソレを妹に言ってはいけないと思った。

 

保険金から葬儀代他、必要経費を差し引き、1/2で分けた。

それが一番もめない方法だと思った。妹も納得して受け取ってくれた。

まさか子宮から肺と心臓に転移し、翌年の秋に逝ってしまうとは。

 

本題に戻る。

 

「折れ戸の下の木材にまで水がしみ込んでいたら厄介です」

だから早いうちにとおっしゃったのだろう。

 

気がかりではあったが、貯金が優先。

働かなければ収入を得られず、貯金もできない。

折れ戸の不具合を忘れかけていた。

 

気になることが出てきたのは2年前あたりから。

特定のタイルが黒ずみ始めた。

浴室用洗剤でこすっても落ちない。

いろいろな洗剤を買ってきては試しても結果は同じ。

 

注意して見るようになると、原因が折れ戸だとわかった。

折れ戸の枠の角から黒い筋がついている。

ヒビが入っていますと言われた場所の近くだ。

 

ヒビの入ったところから何か出てくるのであればすぐにわかったのだが。

 

そのタイミングでハウスメーカーの年次点検があった。

築30年にもなればあちこち不具合が出てくる。

「キッチン、そろそろ交換時期です」

「壁紙を替えれば気分も変わりますよ」

「2階のトイレは新築当時のままですね」

 

さりげなく折れ戸の話をしてみた。

「年数がたって、ガラスを囲んでいるパッキンに微妙に隙間ができてて掃除しずらいんですよね。」

「そうですか・・・」

「折れ戸の交換って、できますか?」

「折れ戸だけ交換はないです、浴室全部です。カタログお持ちしましょうか?」

「あ・・・いいです。」

「今なら200万くらいでできますよ。3日でできるし、最終日からお風呂に入れます。」

 

大手ハウスメーカーからすれば、200万円など少額だろうが、オバチャンにとって200万円は大金。

私の勤め先は中小の機械部品メーカー。

給与体系が「作業者」か否かで決まっている会社。

品質保証、安全衛生に関する業務に携わっていても、生産に伴う作業をしていないので「一般事務員」である。

事務員なので、物品の手配、仕入れ品の在庫管理、電話応対等もある。

 

「いや~いっぱい働かないといけませんね・・・貯金しないと・・・」

笑ってごまかすしかなかった。

 

それからさらに月日が流れ、折れ戸のヒビの指摘をうけてから5年。

何とかリフォームできるくらいの貯金ができた。

 

今年3月にハウスメーカーから冊子が届き、リフォームパックの内容が掲載されていた。

カタログ請求の用紙と封筒が同封されていたので、意を決してポストに投函した。

(続く)