「速さこそが正義」とされるビジネスの時代にあって、私たちは倍速再生や即時満足にすっかり慣れてしまいました。しかし、そうした環境の中で、私たち企業の価値観や、個人としての仕事への向き合い方は、「大きく速く」という浮つきに陥ってはいないでしょうか。
私は、真に生命力のある価値観は、むしろ「じっくりとした時間」を惜しまない人々の中に宿っていると思います。
私たちの部署に、まもなく定年を迎えるベテラン技術者がいます。デジタル化の波が業界を席巻する中、彼は今なお「手書きのノート」という習慣を大切にしています。トラブル対応のたびに、工程改善のたびに、彼は丹念に記録を残してきました。笑う人もいます。「時代遅れだ」と。しかし彼は言います。「どんなに機械が速く動こうと、精密に噛み合う歯車が必要だ。自分は全体を動かすエンジンにはなれないが、決して緩まないネジでありたい」と。
この「遅さ」は、決して非効率なのではありません。それは、専門への敬意であり、責任へのこだわりです。
価値観とは、壁に掛けられたスローガンではなく、誘惑に直面したときのブレーキであり、困難に直面したときの重しとなるものです。技術がどれほど進歩しようと、誠実さ、地道さ、徹底的に追求する姿勢は、決して色あせることはありません。この「速い時代」にあって、私たちは流れに身を任せる浮き草ではなく、ずっしりとした歯車であろう──重くとも、確かな力で歴史の歯車を前に進める存在でありたいのです。

