タイトルのないミステリー

タイトルのないミステリー

おもにミステリー小説を書いています。
完成しました作品は電子書籍及び製本化している物があります。
出版化されました本は販売元との契約によりやむを得ずこちらでの公開不可能になる場合がありますのでご了承ください。

ご訪問ありがとうございます。
こちらは私が趣味で書いている小説をUPしています。
途中、誤字脱字あるかと思いますが、
気がついたところは直していますがそうでないところもあります。
そこはササッと流して下さいませ^^。

★ただいま連載中
蝶の舞ー濃姫ー(2024年1月~)

●過去作
☆リンク ~棘~(2010年7月~2012年10月連載)
☆ゲンと源太(2012年10月~11月連載)
☆羅刹の囁き(らせつのささやき)(2012年11月~2015年5月連載)
☆魍魎たちの誘い(もうりょうたちのいざない)(2015年6月~ 2018年2月連載)1話完結全20話 

過去作上記4作は電子書籍となっています。
読んでいただけたら幸いです
https://www.amazon.co.jp/stores/author/B07MV8LW4P/allbooks?ingress=0&visitId=827f8f30-12a5-4c78-8a42-d7212ca40b40

☆深層の滓(しんそうのおり)(2018年2月~2022年7月連載)
☆闇に囁くもの(やみにささやくもの)(2022年8月~2023年12月連載)

★尚、ここに掲載されている全ての物語はフィクションです。
登場する人物、団体名は実在するものとは一切関係が有りません。
全ての作品は著作権を有しています、無断転用はお控えください。
但、リブログとしてご紹介下さるのは大歓迎です。😊

「私は信長の妻。真実を明らかにし、天下の行く末を見届ける義務がある」

そして、秀政の目を正面から捉える。

「ひとつ教えてくれ、秀政。そなたは秀吉を、どう見ておる?」

秀政は唇を引き結び、慎重に言葉を選んだ。

「……秀吉殿は、恐ろしいほどの才を持つお方です。判断は早く、戦にも強く、民心の掴み方を知っておられる。ですが、」

「だが?」

「……何かを隠している。そのように感じることがございます」

蘭丸が小さく頷いた。

「私も、秀吉殿は殿を尊敬していたとは思います。ですが……“殿の後ろに立つ”のではなく、“殿の座に近づこうとしていた”ようにも見えました」

秀政が、静かに言葉を継ぐ。

「もし秀吉殿が織田家の実権を握れば、その才覚ゆえ、この国をまとめることはできましょう。ですが……御台様をはじめ、古くより信長公に仕えてきた者たちが、そのままの形で残るとは、思えませぬ」

私は目を細めた。

「つまり……私の存在も、邪魔となる、というわけじゃな」

秀政は、深くうなずいた。

「だからこそ、御台様が秀吉殿をどう見ておられるのか、確かめたかったのです」

私は、胸に込み上げるものを抑え、静かに言った。

「私は、秀吉が殿の意を継ぐのであれば従う。だが、殿を己の欲のために踏み台にしたのであれば……その時は、黙っておるつもりもない」

蘭丸もまた、まっすぐに私を見つめていた。

「お方様が進む道であれば、私も従います。例えそれが、いかなる結末であろうとも」

秀政は深く頭を垂れた。その声音には、すでに迷いの色はなかった。

「……御台様のお心、しかと承りました。ただ、今はまだ世が固まりきってはおりませぬ。秀吉殿が真に殿の意を継ぐ器かどうか、それは、我らも見極めねばなりませぬ」

蘭丸もまた、私の傍らで静かに頷く。

「お方様。いずれの御身にも害が及ばぬよう、我らも力を尽くします」

私はゆっくりと立ち上がり、城外へと視線をやった。

「……殿の死から、早三月が過ぎようとしている。世は、あまりにも早う移ろうものじゃな」

誰が死のうと、時は止まらぬ。それは、どれほどの偉業を成した者とて変わらぬ。遠く、夏の空の彼方に、秀吉の影がゆらりと揺れた気がした。

こうして私と蘭丸、秀政のあいだに、まだ形を成さぬままではあるが、確かに芽吹きつつある“分岐点”への覚悟が、静かに交わされた。

 その翌日、朝餉を済ませた私達に向かって、秀政が躊躇いがちに口を開いた。

「……御台様。もうひとつ、お伝えすべきことがございます」

秀政は視線を伏せ、畳の目を追うようにしてから、慎重に言葉を選ぶ。昨日から感じていた。秀政は何か告げたい事があるが、逡巡している、そんな風に。

「……清須において、三法師様が推戴されたのは、秀吉殿の働きかけが大きゅうございます。しかし、その裏には、もうひとつの事情がございます」

「事情とな?」

私が促すと、秀政は小さくうなずいた。

「信忠公の正室、美弥殿と、その御子お二人は――」

そこで言葉が途切れた。室内に、重い沈黙が落ちる。その重みがただならぬものであることは、すぐに察せられた。

「……まさか、生きておるのか?」

己が声が、わずかに低くなったのが分かる。

「はい」

秀政は、はっきりと答えた。

「本能寺の後、混乱の最中に比叡山方面へと落ち延びられました。その後、前田玄以殿が見つけ出し、密かに保護しております。今もなお、玄以殿の庇護のもとにございます」

胸の奥で、かすかな音がした。信忠の血は、もはや三法師のみと思うておった。まさか、御台の子が生きておったとは。御台たちは安土にいたはずだ。本能寺の変と同時に姿を消し、明智の手の者に捕らわれ、その命も失われた、それが世の見方であった。

 

 

〈百漆什弐へ続く〉

※こちらのお話しは史実に沿ってはいますが、不明な部分、定かでないところは多分に作者の創作(フィクション)が含まれますので、ご留意の上ご拝読いただけますようお願いします。

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蝶の舞 ー濃姫ー

深層の滓