火よ燃えろ | われは河の子

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火よ燃えろ 

ジョン・ディクスン・カー 1957年

ハヤカワポケットミステリ 昭和35年


 1957年10月のある夜遅く、ロンドン警視庁(スコットランドヤード)の捜査課長、ジョン・チェビオトはタクシーを呼び止め、車中で物思いに沈んでいたが、タクシーが止まり、車から路上に降りた時、被っていた帽子が車中に落ちた。しかしそれは家を出る時に被っていたソフト帽ではなく、古風なシルクハットに似た帽子だった。

 そして彼を乗せて来たタクシーは二輪馬車に変わっていた。

 彼は突然100年前のスコットランドヤードにタイムスリップしてしまっていた。


 そこで創設されたばかりの首都警察長官のローアン大佐とメイン氏の元で、彼自身同姓同名の捜査課長志願者として、コーク令夫人という伯爵未亡人の家に起こった小鳥の餌が盗まれた事件を解決することで、その地位を得るテストとすることに同意する。


 チェビオトはそこで彼を慕うフローラ・ドレイトンという名の美貌の未亡人と一緒になり(なぜか彼は彼女のことを覚えていた)、彼女と、ローアン・メイン両氏の主任書記であるヘンリー氏と共にコーク夫人のパーティに参加し、そこで夫人の家に寄宿しているマーガレット・レンフルーという若く美しい、しかし何かに怯えている娘を知ると共に、ホグベン大尉という近衛歩兵連隊の傲慢な軍人から無礼な態度を取られ、彼と婚約することになっているルイーズ・トレメインという若い娘のことも知る。そんな中、パーティ会場外の廊下で、前方にフローラが立っている状況で、ドアから出て来たマーガレット・レンフルーが彼女の方を向いた時、チェビオトとヘンリーが見ている目前で背中を撃たれて即死する。しかし銃声も聞こえず、火薬の燃えた匂いもしなかった。

 だがチェビオトはフローラが自分の持っていたマフ(両端から手を入れるようになっている円筒状の防寒具)の中から小型の拳銃を落とすのを見て、それをこっそり拾うと誰にも知られずに笠のついたランプの下に隠す。フローラが銃を撃ってはいないことはチェビオトもヘンリーも見ていた。


 マフを持つ夫人の図


 未来から来た捜査官はこの100年前の不可能犯罪の謎を暴くことができるか?


 不可能犯罪の王者ディクスン・カーが、「ビロードの悪魔」「恐怖は同じ」に続いて過去へのタイムスリップを扱った作品であるが、時間を跨いで同じスコットランドヤードの捜査課長という立場で、推理を働かせることによって(さらに現実のチェビオトは過去の歴史について勉強することが好きだったという設定に説得力がある)、謎解きの不自然さを無くしている。


 解決部分を読むと、不可能犯罪はこれ以上ないあからさまな条件によって可能なことがわかるが、巻末に付けられたカーお得意の「好事家のための後記」と名づけられた後書きにトリックのネタバレがしてあるのはいかがなものかと思う。


 ともかく、現在のわが国において、ごく当たり前のように展開されている「転生もの」を、70年近く前に自家薬籠中の物にしている手腕には改めて恐れ入る。


この本はかつて古書で入手した私が生まれる1年前に出版されたポケミスであったが、


その後文庫化されたが、それもまた絶版になっており、現在Amazonで、未読の新品を購入しようとすると7万円以上の高値が付いている希少本でもある。