B13号船室 | われは河の子

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カー短編全集4 幽霊射手 ディクスン・カ           ー 1980年

 創元推理文庫 1982年



先日来、妖美(よみ)さんがブログにて絶賛しているが、収録されているこの本が絶版になっているので、読みたくても読めない方が多いということだったが、もちろんカーファンの私は持っている。

 しかしながら、上下6段で、前後2列の枕元に鎮座している本棚は、片麻痺で屈むことができない私には、裏の棚の最下層の段の本はベッドから背表紙を確認することができないし、手を伸ばして本を取ることができません。

 なんとか執念でワンダーコアを本棚の前まで引き寄せてそこに座って前面の棚をスライドさせて発見しました。


 「B13号船室」は、短編ミステリ小説ではなく、1940年代に流行したラジオドラマの脚本である。

 娯楽の王者の地位を映画から奪ったテレビが家庭に普及する以前は、家庭で楽しむ公共的娯楽はラジオがその筆頭に位置し、それを使ってナレーションと、声優のセリフ、そして効果音から成るラジオドラマはミステリを提供する格好の舞台でもありました。


 あわただしく挙式をあげ、ニューヨークからヨーロッパへの新婚旅行のために、大西洋航路の豪華客船に乗り込んだ新婦の

アン・ブルースターと、新郎のリチャード・ブルースター。

 2人は急ぎすぎた結婚のため、未だ夫婦用のパスポートを申請している時間がなく、個人用のパスポートを使って乗船していた。

 かつて脳炎を患ったことのあるアンは、期待と不安と、乗客たちの興奮が引き金となって、かつて読んだことのある推理小説の妄想につきまとわれる。

 娘と母親がパリの万国博覧会に出かけて、ホテルに泊まり、娘が外出してホテルに戻ると母親も泊まったはずの部屋も消えていて、支配人以下誰も母親を見たこともなければ知りもしないというストーリーだった、娘は警察に駆け込むが、気が狂ってると見なされ相手にされないという恐怖を描いたものが妄想になって頭につきまとっていた。


 2人はBデッキの13号室という自分たちの客室に入る。

 やがて出航時間になって、アンはニューヨークの風景に別れを告げるため甲板に出る。リッキー(リチャード)は、全財産の2万ドルを事務長室に預けに行く。


 甲板の手すりで、アンは船医のハードウィックに声をかけられる。

 そこで二言三言言葉を交わすと、船医はこの船にはどのデッキにも縁起を担いで13号船室はないと告げる。

 驚いたアンがスチュワーデスに確認すると、やはりその通りで彼女の荷物はB16号船室で発見されるが、夫のリッキーの姿はない。

 乗船時に乗客を確認する二等航海士も、アンが乗船したことは覚えていたが、一緒に乗った乗客などいなかったことを証言する。

 ハードウィック医師に掛け合って船長に面会したアンはやはり適当にあしらわれる。

 やがて夜中に船室で寝ていたアンのところに消えたはずのリッキーから電話がかかって来る。最上層のボートデッキの救命ボートの陰で会いたいというのだった。

 

 先日読んだ「盲目の理髪師」も豪華客船という洋上の大密室を舞台にした長編小説だったが、これはラジオドラマという掌編の中に不可能趣味を盛り込んでいる。

 ラジオではおそらく効果音や、声優の声の違いやトーンでサスペンス感を盛り立てていることだろうが、きちんと伏線は張り巡らされており、文字にして小説として読んだらそんなに難しいトリックではないが、ラジオドラマとして一連の流れのうちにストーリーが進んで行くと、なかなかそれは見破れまいと思う。

 妖美(よみ)さんはカーの短編としてベストに推挙しているが、私はとしてはやはり名探偵のHMが登場した上で、犯人に煙に巻かれる大トリックが冴え、恐怖感もこのラジオドラマ以上に盛り上がる「妖魔の森の家」の方を取る。