弓弦城殺人事件 カーター・ディクスン 1933年 ハヤカワ文庫 1976年
イングランド東部の海岸に臨む古城弓弦城。
それは15世紀の昔からの姿を留め、修復もされずに現在に生き残っていた。 幽霊が出るとも噂されるその城の当主であるレイル卿は、狂人かと思われるような奇矯な人物で、家族や使用人たちを振り回していた。
その城に招かれたレイル卿の友人で博物館長のアンストラザー卿はともかく、そのアンストラザー卿に招待されたテアレイン博士は、レイル卿の息子のフランシスに、城までの道中で、女中のドリスが真夜中の城の階段に鎧を着た幽霊が立っているところを見た話や、甲冑収集に異常な熱意を持つ父親が、収集品の鎧の籠手(こて)と弓の弦が紛失していた事件のことを語る。
城に着いたテアレイン博士らは、フードの付いた白く長い僧衣を着たレイル卿が痩せ細った腕を振り回して、秘書のブルース・マシイを籠手が紛失した件について叱り飛ばしていたところに遭遇する。マシイは書類カバンを小脇に抱え、レイル卿に手紙のことについて懇願するが、主人の返事はくるくる変わり、彼は困惑するばかりだった。
やがてテアレイン博士はレイル卿から甲冑室のコレクションを見せるから、その前の図書室で待つように言い付けられ、大人しくそこで待っていると、長い僧服を着たレイル卿がせかせかと入って来て、待っていたテアレイン博士には目もくれずに、甲冑室の中に入るや否や、秘書のマシイと何事か喋っている声が聞こえたかと思うと、マシイが扉の外に押し出されて来る。
そのうち甲冑室の中からレイル卿の娘のパトリシアが呆然とした様子で現れ、テヤレインや
マシイが慌てて中を探してみると、レイル卿が、首に弓の弦を巻きつけられて、美容体操のような不思議なポーズで、事切れている死体を発見する。
さらには妊娠していることが発覚していた女中のドリスの締め殺された遺体も城の通路で発見される。
ジョージ卿は、近くのゴルフ場に滞在していた犯罪学者で名探偵のジョン・ゴーントを呼び出し、事件の捜査を依頼する。
しかしそうしている間にも、レイル卿の後妻で、権勢家のアィアリーンも射殺されるという連続殺人事件に発展する。
ジョン・ゴーントは冷静な分析と判断で、警察を出し抜いて犯人を追い詰める。
「密室の王者」ディクスン・カーが、別名義のカーター・ディクスン名で発表した長編ミステリの第一作。
ディクスンはこの後、破天荒なキャラで天才的な推理力を発揮する名探偵ヘンリー・メルヴィル卿をシリーズ探偵として起用するので、それに先立つジョン・ゴーントは、ただの酔っ払いのような凡庸なイメージのために、作品の評価を大いに下げているが、
カー独特のオカルティックな雰囲気に満ち溢れた弓弦城の描写を始め、文学的な要素が強く現れている。
ただ、城の作りが難解なので、カー名義の「帽子収集狂事件」のように、現在(帽子収集狂の場合はロンドン塔)の略図を付けてもらえれば、さらによかったと思う(だいたいゴーントが、テアレイン博士に城の地図を描かせている🤣)
二次元的な密室を三次元的に解決するトリックはのくできているし、その後のカー(ディクスン)が何度も使ったトリックを組み合わせて使用しているので、カーのファンならばトリックを見破ることはさほど難しくはないであろうが、テアレイン博士とパトリシアの証言にいささかの矛盾があることが瑕疵であった。
