黒い十字軍 アリステア・マクリーン 1961年 ハヤカワ文庫 昭和62年
イギリス秘密情報部員で、かつ国内最大の兵器・航空燃料専門のヘップワース研究所員であるジョン・ベンタルは、そのヘップワース研究所からの秘密漏洩を探る仕事を西アジアで行っていたが、急遽上司のレイン大佐からロンドンに呼び戻される。
そこで知らされたのは、ここ8ヶ月の間に新聞の求人でオーストラリアの会社に夫人同伴で赴く予定だった、航空力学、超小型化技術、極超音速、電子工学、物理学、レーダー!高等熱量工学などのトップレベルの専門家たちが、そのまま行方を絶った事件であり、彼は新たにその捜査を命じられる。
彼はマリー・ホープマンという美貌の女性情報部員を仮の妻として、9件目の応募に応じてオーストラリアに赴くことになった。
しかし彼らは、シドニーに向けて飛んでいた飛行機の突然の電気系統の些細な火災で、着陸した
フィジーの小島のホテルで何者かに深夜銃で脅されて、ホテルを連れ出され、オンボロの貨物船に乗せられどこへともなく拉致される。
しかし、閉じ込められた船倉の送風パイプが真上のキャビンと繋がっていて、フレックと名乗る海賊まがいの船長が何者かの指示によって2人を誘拐したことを知り、さらに2人に殺害指示も出たことを突き止めると、運び荷の中にあった救命胴衣や、空の水タンクを使って浮きを作ると折からの豪雨に紛れて海に飛び込む。
しばらく泳いでいると、足が届く場所に辿り着き、そこは小さなサンゴ礁の環礁の一部だった。
やがて朝になると現地人の青年2人がカヌーで通りがかり、2人を救助して環礁の中の小島に案内する。そこには白い髭を胸まで垂らした白人の老人がいて、ひどく驚きいった様子で2人を歓待する。
ベンタルはそれが新聞報道されて有名な考古学者ウェザースプーン教授であることを知る。
教授は、かつてはリン酸石灰の採掘が盛んだったこの島で、考古学上の大発見をして、その後フィジー政府と契約してこの島の採掘調査をしているということだった。
一眠りして英気を回復したベンタルは教授に案内してもらい島の採掘現場を見るが、そこには縦横のトンネルが掘られ、トロッコのレールが敷設されていた。
その採掘には多くの中国人労働者たちと、人夫頭のフューエルという獰猛なゴリラのような大男が働いていた。
やがてベンタルは島の反対側にイギリス海軍が駐留しているのを発見する。
数万年に渡った鳥の糞が堆積して生成されたリン酸石灰しか価値の無い島には恐るべき秘密があった。
「ダーク・クルセイダー(黒い十字軍)」と名付けられた移動式核ミサイルの製造と実験がこの島で行なわれようとしていたのだが、それを奪って冷戦状態のアメリカとソ連に脅しをかけて、ポリネシアに更なる脅威を画策する男とベンタルとの虚々実々の騙し合いが展開する。
ここのところ連続して読んでいる、イギリス冒険小説の王者マクリーン節が相変わらず冴える一遍だったが、大ヒットとなった「女王陛下のユリシーズ号」を始め、映画化でも大成功を収めた「ナヴァロンの要塞」や続編の「ナヴァロンの嵐」、「荒鷲の要塞」などの第二次大戦中の舞台と違い、東西冷戦下の1961年の作品なだけに、核ミサイルというお膳立てや、同時ヒットしていた同じイギリスのイアン・フレミングの007シリーズの影響を受けているように感じた。(映画の007/ドクター・ノオは、翌1962年公開)
マクリーンの諸作は、大自然の恐怖を巧く描写するのも特徴だが、先月読んだ「北極戦線」のように人間の存在を許さない極寒のグリーンランドが舞台なのとは違い、地上の楽園フィジーの珊瑚礁の小島が舞台なので、エメラルドグリーンの海と太陽照りつける青空が印象的なのが、少々違和感を覚えた。
結末は予想通りではあったが、ひとつだけ大きく予想外の点が会ったことだけは特筆ものであった。
