青銅ランプの呪 カーター・ディクスン 1945年 創元推理文庫 1983年
エジプトのカイロで父親のセヴァーン卿と共に発掘作業を行っていた娘のヘレン・ローリングが、父より先に、発掘した古代の呪いがかかったという青銅ランプを携えてイギリスに帰国することになり、たまたまカイロに滞在していたヘンリー・メルヴィル卿(H・M)と同じ列車に乗り合わせる。
発車直前には怪しげなエジプトの占い師が、ヘレンやH・M、新聞記者らの面前でヘレンがランプをエジプトに返さねば、彼女の身体が存在しなかったかのように木っ端微塵に粉砕されて消え失せるであろうと不気味な予言をする。
帰国したヘレンはロンドンまで迎えに来た弁護士のキット・ファレルと友人であるオードリー・ヴェーンとともに雨の中を居館であるセヴァーン・ホールに帰り着き、真っ先に玄関ドアを開けてホールに入る。しばらくしてからキットとオードリーが遅れて玄関をくぐると、ホールには脱ぎ捨てたヘレンのレインコートと青銅ランプが置いであるだけで、ヘレンの姿はどこにもなかった。
貴族であるセヴァーン卿とレディ・ヘレンの帰宅を前にセヴァーン・ホールでは執事のベンスンの指揮の元新しく雇い入れられた多くのメイドや庭師、門番などが、主人たちの帰りを待ってあちこちで仕事をしていたが、誰ひとりとしてヘレンが館から外に出たことを目撃した者はいなかった。ヘレンに恋心を寄せていたキットは警察と協力して館を徹底的に捜査するが、彼女をどこにも発見することはできなかったが、不思議なことに、館の中に掛けてあったセヴァーン・ホールを建てさせた初代セヴァーン伯夫人オーガスタの肖像画もその日を最後に消えていたというのだ。
捜査にはロンドン警視庁のマスターズ主任警部が当たり、関係上H・Mもヘレン探しに奮闘するが、いつものドタバタに加えて妙にはぐらかすので事件は一向に進展しない。さらに消えた肖像画を修理に持ち込まれたというロンドンの骨董商の女性(彼女はそれを持ち込んだのはまだ会ったことのないヘレンだったと証言する)や、やはりランプを買いたいというアメリカ人の骨董マニアなどが現れる。
やがてセヴォーン卿も帰国するが、やはり一人で車を運転してセヴォーン・ホールに乗り付けたと思われるが、やはり卿自身もヘレン同様に消えてしまう。
カーター・ディクスンが、仲の良い同じくミステリ作家のエラリー・クイーンと語り合った際に、やはり推理小説の最初の一手の謎は人間消失に尽きるという共感から生まれた作品で、とてつもない不可能趣味を論理的で、明かされるとこれしかないというトリックで構成している。
もちろんテーマは1922年に発掘され、その呪いが喧伝されたツタンカーメン少年王の話題に寄っていることは間違いがない。
一見見た目の派手さに比べて凶悪陰惨な事件は発生しておらず、そういう意味では大作とは呼べるものではないし、あまり印象に残らない。
H・Mのドタバタを楽しむ類いの分野だと思っていいと思う。