氷姫 | われは河の子

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氷姫 エリカ&パトリック事件簿

 カミラ・レックバリ 2003年

 集英社文庫 2009年


 スウェーデンの海辺の閑静な街フォイエルバッカ。海辺の丘の上に建つ古い家の中のバスタブの中で凍った美女の全裸死体が発見される。

 死体発見の現場に居合わせた伝記作家のエリカ・ファルクはそれが少女時代の親友でもあったアレクサンドラ(アレクス)・ヴィークネルであることを確認する。

 そして彼女の両親から地元紙にアレクスの追悼記事を書くことを依頼され、幼い頃に急に引っ越ししてからまったく縁が途絶えていたアレクスの人となりを知るべく、やはり幼馴染の刑事パトリックとともに事件の捜査に関わることになる。

 長い期間疎遠のままで過ごし、美貌を纏い、都会のイェーテボリでのギャラリー経営者として成功を収めていたアレクスの半生を追って行くうちに、不可思議な謎に行き合うと同時に彼女の死は飲んだシードルに睡眠薬を入れられたのちに浴槽の中で両手首をカミソリで切られた殺人と断定される。

 さらに街の呑んだくれとして誰からも嫌悪されていた画家のアンデシュという男との関係が浮上するとともに、20数年前に跡取り息子の謎の失踪事件を起こしたフォイエルバッカの経済の頂点に立つ富豪一家との関わりも顔を現す。

 事件を追うエリカとパットの間には恋が芽生え、エリカは亡き父母の家の売却について妹夫婦と対立する…。

  かつて漁業で栄え、現在は風光明媚なリゾート地として観光客を集める小さな街フォイエルバッカで複雑に絡み合う人間関係の綾を解きほぐし、2人は事件を解決できるか?


 2003年に本作でデビューし、瞬く間にベストセラーを連発して世界的な売れっ子になったカミラ・レックバリのこの氷姫は、文庫本にして570ページを越える大作であり、表紙カバー裏の登場人物紹介だけでも20名に及ぶ人物を配していて、しかもそれが耳慣れない北欧人の名前なのでその関係性を理解するのに若干の苦労はあったが、

 かつては北欧ミステリといえば、シューヴァルとヴェールー夫妻の「刑事マルティン・ベックシリーズ」くらいしかなかったが、私自身もここ数年のうちに、スティーグ・ラーソン  の「ミレニアムシリーズ」やユッシ・エーズラ・オールスンの「特捜部Qシリーズ」などを読みこなした来たので、英米ミステリに比べてそれほどの違和感はなかった。


 この作品は親子、兄弟、姉妹、幼馴染という濃密な人間関係の中で醸される喜びと悲しみを余すところなく描き出し、そこに警察小説、素人探偵、不可能犯罪、ミッシング・リンク、暗号、そして意外な犯人などのミステリの本道アイテムが散りばめられていて、読むものを飽きさせない。

 地味だが意外な犯人には辿り着けなかったが、アレクスとアンディシュを繋ぐ謎は考えていた通りだった。


 エリカ&パトリックシリーズはこの後も続々と翻訳されているし、このシリーズ以外の作品も面白そうなので、またしばらくは目が離せなくなりそうである。