ダブル・ダブル 新訳版 | われは河の子

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ダブル・ダブル 新訳版

 エラリイ・クイーン 1950年

 ハヤカワ文庫 2022年


 エラリイの魂の故郷ともいえるニューイングランドの地方都市ライツヴィルから匿名の手紙がエラリイの許に届く。中身は地元紙の切り抜きで、

『町の隠者』と呼ばれていた守銭奴の老人が病死したこと。そして染色工場を営む大富豪がピストル自殺したこと、さらに『町の物乞い』と呼ばれていた男が失踪したことが書かれていた。物乞いの失踪地点とされる沼地の崖には争った跡と血の付いた衣服が残されており、殺人の可能性も示唆されていた。


 意味がわからず途方に暮れるエラリイのところに、行方不明になった父親を探して欲しいと、物乞いの娘である、森の妖精のように無邪気な娘リーマがやって来る。

 エラリイはまず野生児だったリーマにニューヨーク風の衣類を買い与え、ライツヴィルに同道する。


 やがて町の隠者は実は大富豪の染色工場の共同経営者だったことがわかり、遺言によりその財産が町の人道的医師であるドッド博士のところに行くことが明らかとなった。

 ところが経営権を引き継いだドッド博士がライツヴィルに近代的な小児科病棟を作ろうと、財産と経営について弁護士に調査をさせたところ、大富豪の不正が明らかになり、彼はそれが公表されることを恥じて自殺したことがわかる。


 さらにドッド博士は失踪したリーマの父に5000ドルを渡していたこともわかるが、リーマはその金を知らないし、どこからも発見されなかった。

 

 新聞種になっていた人々を繋ぐ鍵はドッド博士にあることに気づいたエラリイは、リーマを文明人として町で生きる術を身につけさせるべく、ドッド博士の家に秘書として送り込む。そこで彼女は博士の助手で、彼の支援で医者になり、同じ屋敷で暮らす若いケン・ウィンシップと恋仲になる。


 エラリイに頼まれてスパイもどきの活動をしていたリーマとエラリイ自身の活躍で、ドッド博士は毎日必ず鍵がかかった開かずの屋根裏部屋に籠る癖があることを突き止め、屋根の登って小窓から中を覗いたエラリイはそこに二組のトランプ。たくさんの小石、紙箱入りの塩、2個の赤いサイコロ、数本のインディアンの矢などが並べられていることを発見する。


 やがて何かに極端に怯えてノイローゼになっていたドッド博士も家に侵入して来た『町の泥棒』というあだ名の男と、ケンが揉み合っているうちに泥棒が持っていた拳銃の暴発で生命を落とす。


 すでにこの事件の鍵となる失われた輪(クローズド・サークル)に気がついていたエラリイではあったが、連続殺人の連鎖は止まることがなく次には最初から事件の人物に関わっていた弁護士が、そしてその成り上がった弁護士の服を仕立てていた洋裁店の双子の店が火災を起こし1人が死ぬ。

 そして恐怖の標的が次に狙うのは…?


 高校生の頃に買ってずっと持っていたはずの旧訳版がどうしても見つけられないので、せっかく新訳が出ているので新たに購入してみた。


 この事件はミッシング・リンク物であり、童謡殺人物ではあるが、なんといっても最大の魅力は、クイーンの著作中最高のヒロイン、野生の天使リーマの存在であろう。特に前半部の世間知らずの自由奔放な天然山出し娘のリーマにエラリイが翻弄される様は微笑ましくもある。


 童謡殺人の方は、クイーンには「靴に住む老婆」などの先行作品もあるが、やはり英語文化に馴染みのない日本の読者には気がつく術もない。

 どれほどハイクが国際的な文芸評価を得て

英語俳句が活発に作られるようになろうとも、一般の英米ミステリマニアには「獄門島」の味わいはわかりづらいのと同じといえよう。

 犯人は消去法で自ずと明らかになり、いかにしてエラリイがそこに到達したかの解明が読みどころになる。

 「災厄の町」から始まるライツヴィル愛に満ち溢れた一冊と言ってよいと思う。