天海の秘宝 | われは河の子

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天海の秘宝 上下 夢枕獏 2010年

 2013年 朝日文庫


安永二年、10代将軍家治治世の江戸の町に、およそ130年も前に死んだはずの新免武蔵こと宮本武蔵を名乗る武士が辻斬りを働く事件が勃発し、さらには不知火一味を名乗る盗賊団が悲惨な手口で市民を殺めると共に、天に長く尾を引く大黒星という凶星が現れ、自らを大黒天と名乗る怪人も跋扈する。

 本所深川に住むからくり師の堀河吉右衛門は、親友の白面の剣の達人病葉十三(わくらばじゅうぞう)・後の鬼平、火付け盗賊改め役長谷川平蔵こと、若き日の長谷川銕三郎、そして不思議な力を持つ猫の悟空、吉右衛門を法螺右衛門と慕う少年甚太郎や彼に恋情を抱く娘千代などが複雑に絡み合い天海僧正の残した秘宝の在り方を探るという著者お得意の超伝奇アクション時代劇。


 慈眼大師こと南光坊天空は戦国時代から江戸時代初期の実在の僧侶で、江戸幕府では家康から家光に仕え、上野寛永寺を設立し、家康を日光東照宮に祀るなどの功績で知られ、江戸の町を独自の結界によって設計した出自不明の謎の人物として、明智光秀の後身説などが古くから伝わると同時に、徳川家の財宝を隠したことなどがまことしやかに語られる怪僧ではあるが、現代伝奇小説の第一人者の筆は、そこに常識外の設定を与え、およそ考えられない謎と独自の解決を与えてみせるが、いわゆるタイムパラドックスを含めて、十分な説得力を持つとは言い難いのが難点であった。


 特筆すべきは、幾多の闘いにおける犠牲者の断末魔の叫びの独創性で、「えけべけけけっ」「ほんじょらばあっ!」「あっぴょうっ!」などと口走って絶命して行くのである。まるで北斗神拳にやられたザコの断末魔を思わせて面白かった。


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