緋文字 | われは河の子

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緋文字 エラリイ・クイーン 1953年

ハヤカワ・ミステリ文庫 昭和51年

売れない探偵小説家ダーク・ローレンスと、その妻で舞台演出家のローラは誰もが羨む明るく幸福な若夫婦であった。

 しかし、結婚3年目から突如2人の間に隙間風が吹くようになり、それは時折り嵐へと変貌していった。

 ローラの幼馴染であるエラリイの秘書のニッキー・ポーターはエラリイに談じ込み、この夫婦を破滅から救うように依頼して、自らは創作に悩むダークの個人秘書としてエラリイから貸し出された形でローレンス家に住み込む。

  ローラに付きまとう不倫の陰。謎の密会。

 やがてそれは血染めの「緋文字殺人事件」と呼ばれた壮絶な事件に繋がって行く。

 残されたXYは何を物語るのか?


数ヶ月ぶりの書評です。

 39作品あるクイーンの長篇ミステリの27番目に当たる本作は、ニューヨークの若い芸術家夫婦を通じて、当時のニューヨークの町とそこに暮らす人々の暮らしを丹念に描いて見せる。それはローラが密会相手のかつての売れっ子男優との待合せを場所をAからZまでアルファベット順に実在する(Aのついては特定を避けているが)ニューヨークの名所に設定しているためにさながらある種のトラベルミステリーを読む感じがする。

 そんな1950年代の活気溢れるニューヨークを舞台に

一組の夫婦と彼らを巡る人間関係が丹念に描写されるが、不倫の実態がわからないまま、肝心の殺人事件が起こるのはほとんど終盤になってからである。

 謎の構成はクイーンが短編も含めて終生のテーマとしたダイイング・メッセージ(死に際の伝言)とマニュピレーション(操り)である。

 長短とり混ぜて数多のトリックを考案して来たクイーンがここに来てなおこういうトリックとストーリーを考案するのかと驚嘆する。

 さらに一件平凡に綴っていた日常風景や登場人物紹介の中に見事に謎を解く鍵を潜ませている伏線回収の手法の見事さには驚きを隠せない。


 クイーンは英米本格謎解きミステリを代表する作家で、様々なスタイルと複雑な謎、そして論理的な解決を提示し続けた訳だが、その事件は極めて現実的で、同じく黄金期の巨匠であるディクスン・カーが得意とした密室殺人をはじめ、いわゆる不可能犯罪にはほとんど手を出していない。

今かろうじて思い出せるのは「帝王死す」くらいであろうか?

その現実性に基づいた、理論的解決がクイーンの魅力に他ならないと思う。