ナチの亡霊 | われは河の子

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ナチの亡霊 ジェームズ・ロリンズ2006年

 竹書房文庫 2012年


 コペンハーゲンの古書オークションに出品されたチャールズ・ダーウィンの聖書に関して調査を始めたシグマ・フォースのピアース隊長は謎の暗殺団に襲撃され、出品者の孫だという手癖の悪い少女フィオナを保護することになる。


 一方、ネパールの山深い寺院で謎の奇病が発生し、エベレスト登頂隊に同行していて調査を依頼されたドクター・リサ・カミングスは狂気に支配されて殺戮に走る仏教僧と、同じく奇病に感染したと思われるシグマのペインター・クロウ司令官を発見する。

 二人は奇病発生の隠蔽を図るやはり謎の組織に拉致され、ヒマラヤの山中深くに築かれた岩山の要塞に監禁される。


 同時期、南アフリカの動物保護地区では現地民ズールー族の伝説に語られる謎の巨獣の目撃談が語られ、それもこの地を数100年にわたって支配して来た金鉱山の発掘で巨億の財を成し、ダイヤモンドのデ・ビアス家と並び国際経済を裏で動かすワーレンベルク家の存在が動物学者による調査を妨害していた。


 ヨーロッパとヒマラヤ、そして南アフリカにそれぞれ端を発した謎の糸は、シグマの知らないところでそれぞれに絡み合い、それは第二次世界大戦中にナチス・ドイツが研究し、敗戦と同時に闇に葬り去られた科学研究の事実に回帰してゆく。


 時を超えて甦るヒトラーとハインリヒ・ヒムラーの野望。武器を持った科学者たちに勝算はあるのか?


 DARPA(アメリカ国防省防衛高等研究企画庁)直属の秘密特殊部隊シグマ・フォースは、レンジャー部隊やグリーンベレーから選抜された隊員たちに博士課程の教育を施した『殺しの訓練を受けた科学者たち』であり、その主人公は今回ヨーロッパとヒマラヤで襲撃され、その根幹にナチスの思惑と古代ルーン文字に秘められた暗号を手がかりに南アフリカに集結するグレイソン・ピアース隊長とペインター・クロウ司令官とその仲間たちである。


 ナチスドイツ、ナチとは国家社会主義ドイツ労働者党というのが正式名称の政党ではあるが、著者はこれをオカルト教団と断定する。

 ヒトラー総統やその親衛隊長官であった悪名高きハインリヒ・ヒムラーはオカルトに心酔していたことは歴史的事実であり、ナチの前身でもあったトゥーレ協会はルーン文字と呼ばれる古代文字や神話などを拠り所にアーリア人至上主義における民族浄化作戦を決行したし、アメリカの原爆製作のマンハッタン計画のドイツ版を画策していたことも知られている。


ルーン文字(物語中で極めて効果的に使われている)

 さらに進化論・量子力学・知的デザイン説という高等科学知識が網羅され、単なる冒険活劇ではない物語の秘めた奥深さが読むものを惹きつけて止まない。

 

 著者のジェームズ・ロリンズは自らも獣医学の博士号を持つ傍らシグマフォースシリーズを書き続けており、特に古代史や歴史の闇をに現代の科学で光を当て国際的陰謀や事件を解決する新たなアクションスタイルを確立し、そのストーリー・テリングによってジョージ・ルーカス製作のインディ,ジョーンズ映画シリーズ第4作目の『クリスタルスカルの王国』のノヴェライゼーションを任されている。シリーズとして最初に訳出された『マギの聖骨』を入手して読んでみたい。


 なおナチスドイツとオカルト主義やルーン文字に関しては自分が8年前に書いたこの記事をも思い出した。



ドイツ海軍巡洋戦艦 シャルンホルストの勇姿

 写真はお借りしました。