創元推理文庫 1997年
時は1977年。ヨークシャーの荒れ野に隠棲していた青年探偵ニール・ケアリーの元に新たな依頼が訪れる。鶏糞から画期的な肥料を作り上げるプロセスを開発した化学者が、中国娘に骨抜きにされ、自社を裏切って中国に亡命するという。
それを阻止したいアメリカは、ニールにその逃避行を阻止し、アメリカに連れ帰る事を命ずる。
ニールは己自身が骨姑娘に抜けにされたのを知りつつ、文化大革命直後の中国に迷い込み、危険な冒険を余儀なくされる。
骨太な構成を持つハードボイルドである。
しかし、ハードボイルドなキャラクターであるはずのニールは軽くてヤンチャな若者で、ストーリーの重みをさほど感じさせない。
文庫解説にもあるが、青春ミステリーでもある。
しかし、それにしては、文革後の中国という舞台や、返還前の香港の九龍城というステージは重すぎる。観光客は絶対に足を踏み入れてはいけないと言われた九龍城の迷路の描写は素晴らしく、著者がどうやってその情報を得たのか知りたくなる。
そして毛沢東による文化大革命の愚かさと凄まじさ!文革は、私が子供の頃の話だが、日本が高度経済成長に沸いていたのと同じ時期に、隣国でこんな暴挙が行われていたとは!
天安門事件もそうだが、今の北朝鮮と中国との、またはアメリカと中国の関係と同じようなシチュエーションは、私たち世代も、体験しているはずなのだ。が、極めてノンポリな態度でその時代を経た私は、本来ならもっと冒険小説や、エスピオナージュ(スパイ小説)として評価されてもいい本書にそこまでのめり込めない大人(というより初老に)に堕落してしまった事を痛感した。
この地でニールの案内人兼通訳として行動する紹伍との、アメリカのスラングを巡る会話
「「決まり金玉」
「いかれぽこちん」
なんかは原書ではどう表現されているのか気になって仕方がない。