前回「犬神家の一族」をとりあげましたが、青春期の私に多大なる影響を与えたものとしては、夢野久作の小説「犬神博士」を外すわけにはいきません。
「おカッパ頭の少女のなりをした、踊りの名手、乞食芸人の美少年チイは、アネサンマチマチを踊ってワイセツ罪でつかまるが
超能力ぶりを発揮して当局者をケムにまく。つづいていかさま賭博を見破ったり、右翼玄洋社の壮士と炭坑夫とのケンカを抑えるなど大活躍ー
大衆芸能を押さえようとする体制の支配に対して起ちあがる民衆の、バイタルでエロチックな底辺のエネルギーを、北九州を舞台に、緻密で躍動的な文体で描き出す、夢野文学傑作の一つ」
角川文庫表紙裏より
私は多分数千冊に余る物語を読んで来ていると思いますが、その中で、『これぞ!』と思った一冊は、まちがいなくこの「犬神博士」であるといえますね。
もちろん気持ち的には、この著者、夢野久作の代表作である「ドグラ・マグラ」こそ、この上位にランクインするといえますが、かの書の毒は、時として読者の精神を木っ端微塵と砕く怖れがあるので、おいそれとはオススメできません。
実際、私は初読であっちの世界に行った経験があります。
しかして、本書の面白さは時と場合を問いませんね。
私の持っている文庫本は昭和49年版ですが、そこに解説を書いている松田修氏は、
『すでに周知のことであるが、日本の神は、いつの日も両性具有(アンドロギュヌス)であった』と記しています。
アマテラスははたして女神であったのか?
女王卑弥呼が仕えた神は男神であったのか?
私の河童論にもつながるこのテーマは、ジェンダーフリーが唱えられる今だからこそ、避けては通れない命題だとも思います。
が、そんなこと云々より、昭初期のエネルギィを実感できる冒険譚の本書を読んでみませんか?
チイにぞっこんとなることは請け合いですよ。