昨日は芥川龍之介の命日「河童忌」でした。
もちろん彼の代表作の一つである「河童」から採られています。
文学としては芥川のほかに、「河童昇天」やたくさんの河童随筆を書いた火野葦平の諸作が知られていますが、
幻想文学の大家であった泉鏡花に「貝の穴に河童の居る事」という小品があります。
久しぶりのお天気に、沼から出た河童の三郎は、浜辺で若い娘に悪さをしようとしたのを見咎められ、慌ててマテ貝の穴に潜った所を、娘が泊まっていた旅籠の番頭がステッキで突いたものだから、肩に大怪我を負ってしまいます。
その復讐のために、鎮守の姫神様に願いをかけるといったストーリーですが、
鏡花の紡ぐ美しくも妖しい文語体の文章が魅了します。
姫神様の登場シーン。
廻廊の縁の角あたり、雲低き柳の帳に立って、朧に神々しい姿の、翁の声に、つと打向いたまえるは、細面ただ白玉の鼻筋通り、水晶を刻んで、威のある眦。額髪、眉のかかりは、紫の薄い袖頭巾にほのめいた、が、匂いはさげ髪の背に余る。---- 紅地金襴のさげ帯して、紫の袖長く、衣紋に優しく引合わせたまえる、手かさねの両の袖口に、塗骨の扇つつましく持添えて、床板の朽目の青芒に、裳の紅うすく燃えつつ、すらすらと莟なす白い素足で渡って。---- 神か、あらずや、人か、巫女か。
山道の上の、断崖の端の草深い社殿の中から現れる、この姫神様の描写!
神か人か巫女か?と書かれていますが、これはもしかしたら魔ですね。
夏に読むにふさわしい河童譚です。
ところで、
河の童と書いて「かっぱ」ですね。
では、海の童と書いて何と読むでしょう?
答えは「わたつみ(わだつみ)」です。海神のことです。
河童は妖怪・化けものですが、神様と表裏一体なのです。