前回からの宝塚歌劇における結婚問題の続きです。

もう一方のタカラジェンヌの結婚=卒業の理由、

 

創業当時、小林一三が「花嫁学校」と言った背景には女性推進という理由があったのではないかと思います。

 

この時代のジェンダー問題はどのようになっていたのでしょうか?

 

当時の背景について参考にした本はこちらです↓

井上 輝子. 2021. 日本のフェミニズム: 150年の人と思想. 有斐閣.

上野 千鶴子. 2013. 〈おんな〉の思想 私たちは、あなたを忘れない.集英社

上野 千鶴子. 2022.  最後の講義 完全版 上野千鶴子 これからの時代を生きるあなたへ安心して弱者になれる社会をつくりたい. 主婦の友社

澤田 季江. 2021. ジェンダー視点で学ぶ 女性史. 日本機関誌出版センター

中村 敏子. 2021. 女性差別はどう作られてきたか. 集英社新書

 

日本では江戸時代、父や夫に束縛される西洋に比べ、女性は

・財産権

・離婚権

を持っており、女性が社会的に活動し、男性と共に戸外で労働するなど家族間における男女の関係が家父長制的ではなかった点を指摘されています。(あくまでも家族間の話ではありますが…)

離婚した時は妻の実家に持参金なども返還されたそうです(中村,2021,p.116)。

 

それ以前の戦国時代においても、宣教師ルイス・フロイス(1532-1597) が日本に35年滞在し、ヨーロッパ社会との違いを記録に残していますが、

「ヨーロッパでは娘や処女をとじこめておくことはきわめて大事な事で、厳格に行われている。日本では娘たちは両親にことわりもしないで一日でも幾日でも、ひとりで好きな所へ出かける。」

「ヨーロッパでは妻は夫の許可がなくては、家から外へ出ない。日本の女性は夫に知らせず、好きな所に行く自由を持っている」

と述べているそうです

【参考:川口 章. 2013.日本のジェンダーを考える. 有斐閣選書 p.32】

 

これに異変が起こるのが明治時代です。

 

明治期に入ると、政府は近代国家の体裁を整えるため西洋的な法制定を急ぎました。

 

明治民法(1898~1947年施行)には家父長制的な思想を家族や結婚の法律に盛り込んだのです(中村,2021,p.117-9)

 

こうして西洋からの「男性が生物的属性により権力を持つ」という思想が導入されてしまい、女性差別が日本で広まったのではないかと言われています(中村, 2021, p.135)

 

1919年、参政権等を求め日本初の女性運動団体が設立されました。

1922年に女性は政治演説会に参加できるようにはなりますが、選挙権を持つのは1946年です。(澤田, 2021, p.50)

 

 

宝塚歌劇の創始者である小林一三が選ぶ言葉には明治民法で成文化された良妻賢母の精神や、家父長制家族を第一義とする考え方が息づいているとおなじみロバートソンは指摘しており、(Robertson, 1998, p.26)

 

小林はタカラジェンヌ全員に自分のことを「お父さん」と呼ばせ、彼女たちを家族同様に扱ったと様々な文献に書いてあります。(ロバートソン、1998, p.28&永井 咲季. 2015. 宝塚歌劇―“なつかしさ”でつながる少女たち 平凡社、p.130)

 

宝塚歌劇団は「家」の機能をもっている企業体というのが今まで続き、

その一つが娘がお嫁に行ったら卒業、生徒は結婚すると退団

に繋がっているのではないかと考えました。

 

 

しかしそんな時代の中でも小林は、女性が乗り降りし易い様に阪急電車の床を低くし、劇場内に女性の施設を作る等、女性を呼び込む努力を惜しまなかったとのことです(Robertson, 1998, p.202)。

 

小林は明治期でも人間の自由、男女の平等を論じた福沢諭吉(1835-1901)が開校した慶応義塾出身でもあり、影響を少なからず受けているのではないかと思います。

 

小林は経済界から無視されていた女性を花嫁学校という名目で舞台に上げ、消費者としても鍛え、宝塚歌劇団のブランド力を高めたのだといえるのではないかと考えました。

 

しかし100年経った今でもこれでよいのでしょうか?

 

時代と共にこの感覚は間違いなく変わっています。

 

近年では学校が「良妻賢母」を謳う場合、セクシズムを強化し、無意識的に性分業が再生産され、将来的に男性に依存する女性を目指す傾向が強いとされています。

【参考:一橋大学社会学部佐藤文香ゼミ生一同 (著), 佐藤文香  (監修).2019. ジェンダーについて大学生が真剣に考えてみた――あなたがあなたらしくいられるための29問 p.13-5)

 

更に↑で紹介した井上氏は (2021, p.20)は、

福沢諭吉は男女平等を訴えたが、妻や母という性別分業が前提で国益論の立場から論じることは、女性の生き方を統制する可能性があった

と述べています。

 

小林の女性活用の発想は当時の風潮からすれば進歩的ではあるものの、背景には国の意向に沿い会社の利益を重視する、福沢諭吉と同じく男女の二元論的な考えがベースがあります。

 

二元論は不平等で差別的な諸関係を前提にしている点で、思考方法が偏っている可能性が高いのです(Iino, Y., 2019. トランスジェンダー差別がフェミニズムの問題でもある理由. 女たちの21世紀: 特集:フェミニズムとトランス排除 (no. 98). p.39)。

 

また、2018年には「必ずしも結婚する必要はない」が68%と7割近くになっており

(NHK放送文化研究所. 2020.現代日本人の意識構造[第九版]. p.22)

 

中本氏も「女性はお嫁にいく」が当たり前ではなくなった現在の状況で宝塚歌劇における卒業は結婚ではなく転職に変化していると述べています(中本, 2016, pp.225)。

 

そうなると宝塚歌劇では、結婚契機による女性の社会活動制限になってしまっている、と受け取られてしまう可能性があるのです。

 

上野氏によれば、寿退職女性への祝福は、本来の居場所でなかった領域から指定席へと移行するからとのこと…(2013,p.218)。

 

日本でも「住友生命ミセス差別裁判」という、「結婚したらやめてもらう」という職場での既婚女性差別を訴えた全国初の裁判があり、2001年に被告の会社側は「家事や育児等の家庭責任によって労働の質・量がダウンする」 と訴えたが敗北しています(澤田, 2021, p.107)。

 

この様に宝塚歌劇を取り囲む女性の働き方は100年前と比べ変化するも、宝塚ではライフプランよりも企業の利益が優先されているようにも見えてしまいます。

 

それを踏まえてか2020年に小川理事長(当時)が宝塚歌劇団卒業生の「夢組」構想を語りました。(記事はこちら)

 

同年末に宝塚の卒業生数名と契約を締結したと発表しましたが、しかし未だ活躍の方向性等が示されておらず、宝塚歌劇団のOGの方の受入窓口にはなっていないような…💦

 

もちろんタカラジェンヌの中には結婚出産する気はない、という方や、そんなに長く在団してられないよ、という方も沢山いらっしゃると思います。

 

ただ、企業としてライフプランと両立できず、仕事のみに没頭してもらう前提だと過重労働やブラック企業というイメージに直結する可能性がある

この点が、今後のサステナブルな宝塚の運営方法とは言えないのではないかと考えました。

 

つづきます