実は私が論文を書くずっと前、

小学生のときから20年以上宝塚を観劇していて疑問に思っていたというか、不満だったのが

娘役さんが活躍しない…

ということでした。

 

小学生のころから娘役さんファンだったのもありますが、

 

集めていたブロマイドも娘役ばかりでドレスを着こなす姿など本当に目をキラキラさせていました。

それぞれがご用意・手作りされているアクセサリーや髪飾り等をチェックするのも大好きでした。

 

でも、宝塚歌劇とジェンダー⑨エリザベート トートでも説明していたようにどんな海外ミュージカルも宝塚でやると男役さんが主演になるわけです。

 

最近では『アナスタシア』も大好きな作品で、

もちろん真風さんも大好きなのですが、

作品としてディミトリが主役ってどうなんだ?と思った部分はありました。

 

公演によっては本当にトップ娘役さんであってもぜんっぜん出番が無かったり、

そもそも娘役さんの役がない…という作品もざらでした。

蒼穹の昴も女官しかいない!と思ってました💦

 

宝塚歌劇とジェンダー⑥トップスターとはなにかでも書いていますが、

 

・娘役はトップ娘役はいても、最高位であるトップスターになれない

 

・娘役が男役をたてるという習慣

 

・娘役の出番が圧倒的に少ない

 

というのは女性だけの劇団ではあるものの、舞台上におけるジェンダー表象は現在の実社会よりも深刻なのでは?

と思いました。

 

娘役が男役をたてるというのはトップコンビの雰囲気にもより、最近では同じ方向を向いて頑張ろう!みたいなコンビが増えたようにも思います。

 

前述しているとおり、男役のトップスターが男性の主役を演じるという原則が確立した1970年代「ベルばらブーム」より前は女性が主役扱いの作品や男役トップスターが主役として女性を演じる例もありました。

【参考:中本千晶(2019)宝塚の解剖学(株式会社エクスナレッジ)p.24】

 

春風ひとみさんも1988年に退団公演のサウンドオブミュージックでマリア を演じられていたり、

2001年に月影瞳さんの「Over the moon」

2018年に愛希れいかさんも「愛聖女(サントダムール)」

異例!宝塚で17年ぶりの娘役主演舞台 月組トップ娘役・愛希れいか熱演/芸能/デイリースポーツ online (daily.co.jp)

をされています。

でも、これって月影さんも愛希さんもお2人とも退団が決まっていて、

トップスターやトップ娘役が退団が決まるとだいたいディナーショーをするのですが、それの延長だと思うのです。

 

つまりここ30年以上、本公演として全くジェンダー表象は覆されていないとは言えると思います…

 

 

これらのジェンダー表象が一番問題になるとしたらそれは観客に男女の二元論を強烈に植え付け、再生産するところだと思います。

 

佐倉氏(2021, p.13)は異性愛前提の男女二元制に依拠すると、ジェンダーの問題や性差別の原因となるためシステムを改革すべきだと述べています。

【参考:佐倉 智美. 2021. 性別解体新書―身体、ジェンダー、好きの多様性. 現代書館】

 

ではそうなると「男役」と「娘役」の二元論もずれが生じるのかも…?という考えが生じてきました。

 

男役・娘役に捉われない役割を作るか、

そういったカテゴリーをなくしていくか…

 

この様な男性役優位な表象やシステムがどうなっていくのかも今後の宝塚のチェックポイントなのかなぁとも思います。

 

しかしアンケートやインタビューでは(具体的なデータやコメントは載せられませんが)

圧倒的に観客にも女性が多いのに、現在の家父長的な表象やシステムを支持するものがほとんどでした。

 

Hooks(2014, 2014, p.xii)によれば、

男性は家父長制が変わってしまったら、慣れ親しんだ世界になにが起こるのか不安を感じる。しかし男性がいなければ家父長主義も性差別も存在しないだけではなく、女性もまたその様な意識や行動を支えている

と述べているのが頭に浮かびました。

【参考:Hooks, B. 2014. Feminism is for Everybody: Passionate Politics. Pluto Press.】

 

正直、私も娘役さんが出ないー!!という不満はありましたが、論文を書き始めるまでの20年は宝塚歌劇の現在のシステムや社会が家父長的という風にはあまり捉えていませんでした。

 

しかし海外からは少し違和感があるようで、

以前から日本女性が家父長制を未だ支持する行動について欧米でも研究対象になっていたそうです。

 

それによれば文化的な遅れにより伝統的な価値観に縛られているからではなく、

責任から逃れる自由と、それで可能となる「遊び」を楽しんでいるため、

差別と戦う必要がないとする見解が有力となっている

【参考:Condon, 1985 cited by Ogasawara, 1998, p.30】

とのこと。

 

たしかに、ファンはその世界観を楽しんでいるし、

タカラジェンヌもシステムを知った上で、自分が憧れて好きで入っているんですよね。

 

論文的には、大学時代の教授などにもアドバイスを頂き、

ここには

「同意」

があると考えられるのではないかという結論にしました。

 

タカラジェンヌは虚構の世界でジェンダーゲームを演じ、ファンはそのジェンダーゲームを楽しんでいる。

 

でも、だからこのままでいい、は少し違うなと感じました。

 

NHK放送文化研究所. 2020. 現代日本人の意識構造[第九版] NHKブックス

によればこの45年で一番変化したのは「家庭・男女関係」ということです。(p.209)

また、コロナ前のデータではありますが、外資系企業の日本進出や日本企業の海外進出、デジタルメディアの発達などにより、1970年と2015年を比較すると、入国した外国人は25倍であったりとグローバル化も急速です(付録p.41)。

 

そうなると客層も、どんどんとジェンダー問題やレイシズム等に敏感になり、感覚が変わってくる可能性が大きそうです。

 

女性の家父長制支持行動には現行の不平等な制度に協調、服従し、再生産してしまう事も指摘されている(Sato et al., 2019, p.44)

 

という部分は今後の宝塚歌劇において気を付けるポイントなのだろうなと感じました。

 

つづく

 

↓そうはいっても大好きな作品!アナスタシア!