ファンクラブの問題は取り上げるかすごく迷ったのですが(今はコロナでかなり活動が制限されていますし…)

宝塚歌劇の現在の最大の問題点かもしれません…

 

というのも

宝塚歌劇団の公式ファンクラブとして唯一存在するのが、

「宝塚友の会」です。

こちら全体ファンのためにチケットサービスを行っており(当選率の悪い…)

『歌劇』や『宝塚GRAPH』といった機関誌の定期購読などが出来ますがそれだけ、といった感じです。

 

今回、論文で取り上げたのは、個々の生徒を応援するための非公式なファンクラブ(以下FCとします)です。

 

私設FCに関する本としてはやはりこちらでした。↓

【参考:宮本直美(2011)宝塚ファンの社会学: スターは劇場の外で作られる(青弓社) 】

 

 

 

しかしこの本は出版から年数が経っているので、論文にするには詳しいインタビュー内容などはブログに載せられませんが、OGのかたやファンクラブスタッフの方にもインタビューさせて頂きました。

あとは中本千晶(2019)宝塚の解剖学(株式会社エクスナレッジ)も沢山参考にさせて頂きました。

 

 

公式FCが個々に存在しないのはあくまで「生徒」だからとのことです(中本,2019,p.122)。

 

私設FCは、1980年代に設立されたとのことですが、いつから現在の様になったか判断が難しいとのことです(宮本, 2011, p.49)

 

男役がスターになるには、金銭面等のサポートがなければ難しく、卒業までの不確定なレースは、独特なファン活動を引き起こしてきました。

スターさんになるには会登録をする、など様々なルールがあります。

会登録というのは入団3年目から可能で、これをすると基本的に1公演3枚ベースの生徒席よりも劇団からのチケット量が増えます。

 

↑の宮本さんの本にも詳しくかいてありますが、チケットはまずトップスターのFCへ渡った後に会登録しているスターさんのFCへと配布されます。より多くチケットが捌ければスターとしての地位が上がるわけです。

 

また、娘役は基本的にトップ娘役しか会登録しないそうです。

トップスターがトップ娘役を指名することもあり、あまり私設FCの動きがトップレースには関わらないのではないかとのことです。

 

私設FCは、特定の生徒のキャリアを追い、ほとんどが卒業と共に解散します。

楽屋の入出待ち、身の回りの手伝いや、お茶会と呼ばれるFCイベント、チケット取扱いが主な活動内容となっています。

(Covid-19の状況下では最低限の活動になっています)。 

 

劇団はチケットを託し、その販売活動に敷地を使わせている事からも私設FCの存在を認めており、チケット配分量等によりトップスター本人だけでなく、そのFCにも力が生まれています(宮本, 2011, p.60)

コロナ前には出待ちの人数やお茶会というファンクラブイベントの人数を劇団が把握しているという話も聞いたことがあります。

 

 

ファンは公演を見るだけでなく、様々な情報を読み、トップレースの分析を楽しむ…

Jaggerによれば、このような消費行動は、自己アイデンティティの形成と結びついているとのことです(E. Jagger. 'Consumer Bodies'. 2000,p.7)

 

また、ロバートソンによれば消費者であるファン自身も生産者であり、観客もパフォーマンスの一部なのです(Jenkins, 1992, cited by Robertson, 1998, p.185)。

 

ここで、大学院の授業内でやった【プロシューマ―】というワードと繋がりました。

プロシューマーというのは現在でも目にするセルフレジのようにお客さんにも働かせるというもので、現在の特徴として消費者と生産者の区切りをしなくなっているというものです。

【参考:Ritzer, G. & Jurgenson, N., 2010. Production, Consumption, Prosumption: The Nature of Capitalism in the Age of the Digital ‘Prosumer’. Journal of Consumer Culture, 10: 13–36./Ritzer, G., 2015. ‘The ‘New’ World of Prosumption: Evolution, ‘Return of the Same’, or Revolution?’ Sociological Forum, 30 (1): 1–17.】

 

ファン達も単なる消費者ではなく、生産面も担う存在なのが宝塚歌劇団の私設FCの大きな特徴です。

プロシューマー制度と同様、生産者と消費者の境界は曖昧なわけです。

 

ここで問題になるのは、劇団から託されたチケット販売=チケットの営業力、イベントの組織力、企画力等、高度な能力が求められ、私設FCの「代表」や運営スタッフの責任と負担が過大になっているにも関わらず、あくまで私設である、という部分です。

 

劇団としても手を入れ始めたらきりがない、コストがかかる…と私のような一般人が想像するだけでも冷汗がでますが💦笑

 

 

しかしこの様な仕組みの根源もジェンダー問題と密接に関わっているのかもしれないと考えました。

 

そもそもファンクラブの主な担い手は主婦で、この主婦層は確実に減少傾向にあるわけです。

 

結婚した女性は「子どもが生まれたら家庭に専念すべき」の回答は年々減少し、2018年には8%になっています(NHK放送文化研究所. 2020.現代日本人の意識構造[第九版]. p.50)。

 

さらにこのファンクラブの労働は不払い労働で、それは主婦の無償労働という議論と似てるなと考えました。

ファンクラブによってはチケットにプラスしてファンが払う「お花代」等でスタッフのお給料を出しているというところもあるようですが、基本は無償のようですし、劇団からはもちろん支払われることはないので、ファンクラブ自体の運営やお金持ちのファン、ご実家の財力に頼らざるを得ないのです。

 

 

上野千鶴子氏は市場の外側にある不払い労働に女性差別の根源があると述べています。

【参考:上野 千鶴子. 2022. 最後の講義 完全版 上野千鶴子 これからの時代を生きるあなたへ安心して弱者になれる社会をつくりたい. pp.32-5】

↓すごく分かりやすく、色々な事を考えさせてくれる本です。

 

 

彼女は専業主婦について考察し、

その行為を第三者に移転できるかどうかで決まる「第三者評価基準」では間違いなく家事は労働であり、

1996年の経済企画庁(現在・内閣府)が発表した日本の平均的な主婦の家事労働の値段は年額276万円であるとのことです。

 

人間が経済活動をする市場内部では財やサービスの生産と流通で、そこでは対価が払われます。

市場の外側では、自然や家族といった生命を産み育て、その最期を看取る労働が配置されています。

市場は、オープンシステムで外部からインプットを得てアウトプットしており、市場は一見自立的に見えるが、実はその外部に依存しているといいます。

 

宝塚歌劇団の私設FCは芸能事務所のマネージャーが行う仕事を担い、会社側には利益が出ているものの、その裏には私設ファンクラブという膨大な不払い労働があると考えられ、この依存構造は酷似しているのではと考えました。

 

しかし婚姻関係等は法的に守られますが、私設FCは何の契約もルールもありません。

そこでどんな事が行われても罰せられる事もなく、もはやもっとたちがわるいかも…?と思ったわけです。

 

ここには市場から忘れられている労働があり、忘れているのは依存だと上野氏は述べます。

これを政治思想研究者の岡野八代氏は「忘却の政治」と呼んだそうです(上野, 2022, p.52)

 

社会が存続するためには、生産と再生産の両方が必要です。

劇団がFCの存在を無視する事は存続の危機を孕むのではないかと考えました。

 

 

しかしここには労働力の搾取というより、

ファンの「報酬は要らない」「無償の応援」という想いや愛があります。

 

これもすごく日本のジェンダー問題と密接で、

 

上野氏も著書で主婦の研究をした際に、「家事も労働だ」「不当に支払われない労働だ」と述べると、

真っ先に主婦の方から

「私のやっている事は愛の行為。お金に換算する事の出来ない価値のある行為だ」

と批判を受けたそうです。(上野, 2022, pp.32-3)

 

このように現在の日本の一般的な夫婦間の従属関係について、

「夫が、身のまわりの世話を妻に依存するさまは、家父長制の産物であっても、その完璧な依存は、妻に何かしらの力を行使する余地を与えている」

【Lebra, 1984, cited by小笠原 祐子. 1998. OLたちの「レジスタンス」―サラリーマンとOLのパワーゲーム.中公新書. p.169】

 

という事や、

「日本女性には政治や経済等の公的場面からしめだされている不平等により組織が強要する型に合わせなくて良い利点がある」

【参考:岩尾, 1993, cited by 小笠原. p.31】

 

という、構造的劣位が、ある種の優位をもたらす現象はタカラジェンヌとファンにも当てはまるなと思いました。

 

生徒がお世話をしてくれるファンに依存すればするほどそのファンには力が生まれます。

つまりファンは、報酬は要らないといいながらFCにおけるなにかしらの力、例えばスターからの想いや目線、他のファンの羨望を手に入れているとも考えられるのです。

 

この様に劇団がFCを公式にしないで締め出す事で社会的常識からはずれていても権力を持ったファンが自分の思い通りにできる空間が生まれている部分はあると思いました。

 

現在も様々なファンクラブでスタッフ間やスターさんとのトラブルの話を聞きますし、

今後スタッフの担い手が減る可能性が高く、早目に体制を整えなければ現在のチケット販売量やルートは崩壊することは間違いないと思われます…

 

現在Covid-19状況下で活動が最低限なうちに劇団はFCと交渉し、組織化する等透明化を図り、公明性を高めるべきだと思われます。

 

子会社化するなどやり方は色々ありそうですが…

 

頑張れ劇団…