さてさて、宝塚歌劇とジェンダー④男役の歴史回で語っていたオスカル様について…
オスカル様とジェンダーについてはこちらの本がとても詳しく書かれておりました!
押山美知子(2007)少女マンガジェンダー表象論―“男装の少女”の造形とアイデンティティ (彩流社)
川崎賢子(1999)宝塚―消費社会のスペクタクル(講談社選書メチエ)
中本千晶(2017)鉄道会社がつくった「タカラヅカ」という奇跡 (ポプラ新書)
戦後から20年代までは、集客は伸び悩んでいるにもかかわらず制作費は肥大化し、年間10億円規模の赤字を出し続けていたとのことです(中本, 2017, p.25)。
それに回復の兆しが見えたのが1974年に初演をした『ベルサイユのばら』です。
この作品は当時人気の少女漫画を原作にしたフランス革命を背景とした作品であり、主役のオスカルは男装した女性です。
初演から2年間で上演560回、観客140万人を動員しました。
【参考:朝日新聞出版. 2014. 宝塚歌劇華麗なる100年. p.88】
軍服に身を包んでいるが、女性であることを知られているオスカル。
マリー・アントワネットと恋に落ちる異国の貴族フェルゼン、そのフェルゼンに恋するオスカル、オスカルに身分ちがいの恋心を抱くアンドレをはじめ、
革命派のジャーナリスト・ベルナール、オスカルに求婚する貴族のジェローデル、貴族に反する衛兵アラン等、
男役のさまざまなタイプの競演がみられます(川崎、1999、p.214)。
オスカルの性別越境は様々な段階を踏みます。↓(押山、2007、p.178)
・オスカルは生まれた時に父親から不可抗力的に性別越境を強いられている。
・女の身で「武官」という男性役割を担うことを自らの進む道として肯定的に受け止めることで、性別越境を自らの選択へ転換したと見ることができる。
・ジェローデルの求婚を断る=女性として生きることへの拒否と父親からの自立
・ジェンダー・フリーの生き方を自ら選び取ったオスカルは自らをなにものにも束縛されない存在として自己規定する
→最終的に父・ジャルジェ将軍に受け入れられることにより、その正当性が保障される。
宝塚歌劇とジェンダー④男役の歴史回で語っていたように
今まで宝塚の男役は役柄において、
基本的にGE:性表現・GI:性自認・SC:身体性は男性、SO:性的志向は女性を表現していました。
しかしこの作品により男役はGI:性自認とSC:身体性が女性で、SO:性的志向とGE:性表現は男性というオスカル役を表現します。
天野氏によれば
それまでの男役は断髪することで男性優位社会の男を演じていたが、男役が長髪で演じる、男装の麗人オスカルは男性優位社会を拒否する役であり、従来の男性からの逸脱し、新しいパラダイムにおける男役の記号として機能しはじめた
と述べています(天野, 2009, p.9)。
このベルサイユのばらのオスカル誕生の背景には女性解放運動があり、(天野、2009、p.9)原作者の池田理代子さんも
私が連載を始めたころは、まさにウーマンリブの時代でした。私自身も大学を卒業し、就職してみて、現実ってこんなものなの?と思い悩んだこともありました。そして、そんな悩みの中から、自分は何を求めているのかを、一生懸命見つけようとしていたような気がします。(押山、2007、p.209)
とおっしゃっています。
川崎氏も著書の中で社会環境の変化に触れています。
再演は1989年であるが、このあいだに女性たちをめぐる社会環境は大きく変化した。高度経済成長をささえた、性的分業にもとづく核家族の崩壊がすすんだ時期である。1984年には、既婚の女性のあいだでも職業についている主婦が専業主婦の数をうわまわった。翌年には、女子雇用者が家事専業者を二万人うわまわったことが報告され、1986年には改正男女雇用機会均等法が施行された(川崎, 1999, p.214)。
ここで、このように社会情勢を反映するような性別越境は宝塚歌劇団の窮地を救っているのではないかと考えました。
ただ、その当時は宝塚歌劇団内部からの反対、初演でオスカルを演じる榛名由梨の元に「人間にはオスカルが出来ない」と批判殺到したそうです。
本人もこれまで宝塚歌劇団で扱ったことのない男装女性という役柄に戸惑いがあったと述べています。
(『宝塚『ベルサイユのばら』初代オスカル役・榛名由梨さんが明かす「非難」と「反響」』)。
それが、周囲の思惑に反し大成功し、反対派までもがファンとなり、社会現象を巻き起こしました。
ということは現在、多くの人がええーっと思う性別越境は逆に宝塚歌劇団の人気の起爆剤にもなりうるのではないか…と考えるきっかけとなりました。
トートに続きます。