企業の資金余剰が30年以上続いてきた結果、過去最大の資金が日本企業にあります。しかし、日本企業は借金をしてまで設備投資することに消極的です。一方で日本の若年層は日本の将来に悲観的です。資金はあるにも関わらず、日本の将来に期待が持てないというのが今の日本の姿と言えます。日本銀行の調査統計局が四半期ごとに作成し、3か月後に速報、6か月後に確報を公表している資金循環統計で国内の金融資産・負債の推移を企業・家計・政府といった経済主体ごとに見ることができます。

 過去最大の資金を使ってどれだけの設備投資ができるか。どれだけのリスクをとれるかは現在の経営者にかかっています。日本財団が2018年から毎月1回実施している「18歳意識調査」によると、とりわけ過去3回行った国際調査でも外国の若者に比べて将来を悲観視する傾向が強い日本の若者の姿が浮彫になっています。自国の将来について「良くなる」と答えた日本の若者は15%、「悪くなる」が2倍の30%に上り、「どうなるか分からない」が30%超と各国に比べ、過去3回の国際比較で見ても特に悲観的な日本は3回とも圧倒的な最下位でした。

 日本の若者が将来に悲観的な背景には1990年代から経済の停滞が続く「失われた30年」や世界の先端を切って進む少子高齢化、国の借金がGDPの2倍以上に膨れ上がった財政悪化(資産はその分ありますが官僚が天下り利権を手放さない)、ウクライナやパレスチナ・ガザ地区で続く軍事衝突など不安定な国際情勢、深刻度を増している地球温暖化の影響などが背景にあります。少子高齢化は韓国でも問題となっていますが、高齢者と若者に対する国の政策評価では日本の若者が大差で日本政治の高齢者対策への偏りを指摘しているのに対し、韓国では老人対策より政府の若者対策が高く評価されています。

 世界は今、激しく揺れ動く時代を迎えています。新しい時代の主役は若者です。一人でも多くの若者に国や自分の将来を自ら切り開いていく覚悟と気概を持っていなかったら国の将来はますます暗澹たるものになってしまいます。若者に国や自分の将来を自ら切り開いていく覚悟と気概を持ってもらえるよう、全世代で支えるのが将来ある国の姿であるべきです。

 2024年1-3月期の資金過不足(季節調整値)を主要部門別に見ると企業の資金需要が14.4兆円と過去最大を記録しました。資源・エネルギー高が一服するなかで価格転嫁が進展した上、設備投資が伸び悩んだことが企業の余剰資金拡大の背景にあります。家計部門は2四半期ぶりに3.0兆円の資金余剰に転換しましたが、余剰の水準はコロナ禍前を下回り、物価上昇による実質賃金の押し下げが影響しています。政府部門は7.7兆円の資金不足、海外部門は6.0兆円の資金不足となっており、それぞれ資金不足が継続しています。

 消費増税など景気悪化を主導してきた政府と財務省ですが、目先の対策ばかりに追われてきた結果、将来悲観的になる若者をみて政治家と官僚は反省していただきたいです。裏金問題で自民党は政治を停滞させている場合ではありません。官僚も自らの天下り利権の拡大に奔走しているだけであるべき国の姿を描くことをしているのでしょうか。経済安全保障やエネルギー問題など政治によって解決しなければならない問題に早急に取り組んでいかなければなりません。日本は過去半世紀以上にわたり、世界経済でとても大きな役割を果たしてきました。日本が世界経済を形作る上で非常に重要な役割を担ってきたことを忘れてはいけません。穏やかで秩序ある社会をつくり安全で誰もがあこがれる生活様式を国民が送れるようにするなど日本が世界に教えられることは本当にたくさんあります。

 日本が先進諸国に対しすべての人の役に立つ高齢化社会をつくるにはどうすればいいかを示す責任があります。価値観が固まっていない国々に対し官民が協力する日本型混合経済モデルがうまくいくことを示すのも日本の大きなテーマです。先進国は日本がアジアのなかで積極的にリーダーシップをとってほしいと期待しています。日本の政治家より企業は世界を理解しており教えることが沢山あります。偉大な企業の技術力を足掛かりとし、これまで日本企業は製品をより良いものにする方法だけでなくそれを様々な社会に売り込む方法を世界に伝えてきました。

 日本が少子高齢化社会で示すことは世界にとって大きな教訓になります。教育水準が高く適応力があり健康な高齢者は資源であって重荷ではありません。従来の雇用形態に限らず広く社会で高齢者のもつスキルを最大限に活かすにはどうすれば良いのか、私たち全員が学ばなければなりません。世界が人類の歴史ではじめて直面する少子高齢化の状況で、一方、若い世界、特にアフリカで人口が増えるなかで老いる社会がはたしてリーダーシップを発揮し続けられるのかが問われています。

 自らの利権拡大と維持確保に奔走している政治家と官僚の姿・巨額の公的債務・円安・失われた30年など様々なことを心配していますが、悲観ばかりしていると思考がマヒして可能性を潰してしまいます。それらのことはしばらく置いておいて日本人がこれまで成し遂げたことを称えられるようになればなるほど、日本がより良い世界を築く力であり続けるようになります。若者の将来悲観から脱却できれば、海外に留学する若者が増え、その国で友ができ人脈が広がります。海外からの観光客を増やす取り組みを国が進めるのもとても良いです。外国に若者が行かなかったら学ぶことはもちろん教えることもできません。一人でも多くの若者に国や自分の将来を自ら切り開いていく覚悟と気概を持って海外に積極的に打って出る、それを全世代で支えるのが将来ある国の姿です。