東京都知事選挙で2位の165万票を獲得した石丸伸二氏がマスコミで取り上げられ、選挙後もその熱は冷めていません。マスコミの都知事選での取り上げ姿勢に不満を感じ、開票直後のマスコミからのインタビューには塩対応していた石丸氏も各情報番組へのゲスト出演に応じ、各番組のコメンテーターや他のゲストらと丁々発止のやり取りを展開、視聴率稼ぎにも貢献しています。

 若干41歳の石丸氏は広島の安芸高田市長を経て東京都知事に挑みましたが、YouTubeを中心にSNSを活用して20代30代を中心に有権者から多くの票を獲得することに成功しました。公約に掲げたのは政治再建を通じて日本を「経済強国にしよう」というものでした。3本柱は「政治再建」「都市開発」「産業創出」ですが、一丁目一番地は政治再建ですべての政策の基本であり根本であるとしていました。民意を集約してバラマキ政策を一層、都市開発では23区内が特に過密なので多摩地域などの開発、産業創出については教育への投資が成長戦略につながると訴えていました。

 最新の世論調査によると既存政党に期待していない有権者は過半数を超え、大多数が既存政党には期待していません。自民党が裏金問題で支持率を失っている中、野党第一党の立憲民主党が受け皿になるどころか、野党各党も支持率低迷から抜け出ることができないままです。裏金問題だけでなく文通費の扱いについての経緯を見ている有権者の眼には既存政党は既得権益を手放すことはないだろうと映っています。もっと言えば、今回の都知事選で3回目の支持を得て再度、都知事を務める小池百合子氏も既得権益を守る立場の人間です。それでも3選となったのは頑強な既得権益支持層が有権者の中に一定割合を占めており、60%の投票率でも既得権益側にとって有利だったということが示されたのだと感じます。

 選挙戦略もひとつの要因です。石丸氏の選挙参謀を担ったのは永田町で「選挙の神様」と異名をもつ藤川晋之助氏でした。ネットでは小池氏を勝たせるため批判票を割らせるための自民党からの援護射撃だったのではないかと言われていますが、私もそのように感じています。むしろこれが石丸フィーバーの最大要因です。小池氏には学歴詐称を始め様々な疑惑があるにも関わらず、追求するメディアには制裁を課し、メディアからの追求はさせないようにする強権的な対応でした。有権者の大半はこれらの疑惑に対する説明責任を果たさない小池氏の対応に不満を感じていました。通常の批判票は野党第一党に行くはずが、野党第一党候補に見えた蓮舫氏に行くのではなく大半は石丸氏に行ってしまいました。蓮舫氏は無所属で出馬したとはいえ、立憲民主党の議員でしたから、有権者から見れば立憲民主党の候補と映っても仕方がないと言えます。また、SNSを駆使し、若く清新に見え、政治を変えてくれると期待された石丸氏に20代の有権者が投票するのは当然の成り行きだったのでしょう。

 現在、この石丸フィーバーは一過性ではないかと考える人が増えています。同じ時期、兵庫県知事のパワハラや物品の授受を巡る疑惑が取りざたされ、これを告発した県幹部の男性が県議会の百条委員会への証人出席を前に亡くなったことが取りざたされていますが、石丸氏のマスコミへの高圧的な対応と重なってみえて、ネット上では危うさを危惧する声が出ています。若く清新なイメージで当選した兵庫県知事の斎藤元彦氏は46歳ですが、告発を嘘八百だとか公務員失格だと一方的に発言していました。その後の調査ではおねだり体質やパワハラの告発には十分な事実が含まれていたことが報道によれば判明しており、イメージとは異なり知事が具体的な説明を果たさずに職に固執する理由が有権者には理解できないままです。

 石丸氏の選挙後のテレビ出演で「女子供」「一夫多妻制」といった発言も大炎上をもたらしており、具体的な政策を問う答えとしてはとんでもない発言が出ているのも熱狂的だった石丸信者の離反につながる要因となっています。地方都市の首長の実績をもつ泉氏との討論でも子育て支援策を巡る話は泉氏が圧倒し、石丸氏は言葉に詰まり下を向く姿が多かったのも離反に拍車をかけました。石丸氏が選挙期間中に見せたSNSで発信したイメージとは異なり、マスコミへの対応でみせた質問にまともに答えず、マウントを取ろうとする姿勢が政治家としてどうか、同じ時期の兵庫県知事の姿勢と重なるところがみえていたのだと思います。

 石丸氏の次のステップはどうするのかについてマスコミの関心は向いていますが、この熱狂は一回限りではないでしょうか。既存政党、特に自民党は自分たちが勝利するために、秋の総裁選を経て、禊は終わったと新総裁をいただき、再出発するでしょう。衆院選に向けて野党がまとまらない体たらくが続くと思いますが、そうなれば自民党政権がまだまだ続く可能性が高いと思います。有権者が既存政党に期待していないということを踏まえれば、有権者は新たな人物の登場を期待していると感じますが、議会制民主主義を掲げる日本において一人の人間だけで政治再建は無理です。自民党が野党を分断するために今回のような石丸氏のような候補者を使って票を分断させる選挙戦略をとることは今後も十分に考えられます。