ロスリーダーとはスーパーや家電量販店での目玉商品などより大きな注文を得るための「客寄せ」として特定の商品にきわめて安い価格を設定することです。コストより安い価格で販売することは一定期間またはその商品単体では赤字となります。それでもロスリーダー価格は非常に安い商品を購入するために人々を呼び込みます。その間に予定していなかった定価の商品も買ってくれるかもしれないので元の商品の損失は補って余りあることになります。

 米国ではインフレから低所得層を中心に消費は慎重になってきています。そこで日米中でファーストフード企業が価格戦略を見直しています。米国マクドナルドやスターバックスは5ドル前後のセットメニューを導入しました。中国では大手チェーンが低価格店を立ち上げ、日本もケンタッキーなどが値下げをしました。インフレ疲れや雇用情勢の低迷など様々な事情から各国で外食離れが進んでおり、外食業界でロスリーダーで顧客を呼び戻す戦略をとる企業が出てきています。

 マクドナルドはニューヨーク州北部で行った5ドルメニューのプロモーションが低所得層から好評を得ただけでなく、比較的裕福な顧客からの追加購入にもつながりました。しかし、マクドナルドにとって4週間続けるこのキャンペーンは売上を伸ばすだけが目的ではありません。マクドナルドは値段が高くなりすぎたという顧客の印象を払拭するためのキャンペーンでもあったのです。SNS上ではマクドナルドの商品は今年に入り、過去数年で値段が2倍になったとの説明とともにコネティカット州の店舗でビッグマックセットが18ドルで販売されているとの画像が拡散しました。

 米国経済はなお活況を呈しており、失業率が上昇してきたとはいえ、まだ低い水準です。実質可処分所得の伸びは停滞しており、コロナ禍に積みあがった貯蓄はほぼ底を尽き家計の借金は山積みになってきています。その結果、外食は減り、多くの消費者にとってファーストフード店でさえ特別な機会のために利用することになることが増えました。マクドナルドではスマホのアプリ経由で注文する顧客に無料のフライドポテトを提供するなどのプロモーションも行っています。アプリを利用する顧客は注文頻度が高く、ドリンクやデザート、その他の商品を追加注文する傾向も強いので同社の成長戦略の重要な柱の一つになっています。

 マクドナルドは秋以降の販促計画について明らかにしていませんが、5ドルセットの販売を終えても引き続きバリューと手ごろな価格で競争力を維持するとみられています。現在の顧客が求めているのは新商品や独創的なアレンジではなく、値ごろ感や金額に見合った価値になっています。売上高で全米最大の外食チェーンであるマクドナルドはその規模とマーケティング力で競合他社に対して優位に立っています。マクドナルドの原材料購買力や価格交渉力は競争優位に立っているので競合他社との闘いにおいて価格競争力優位は揺るがないでしょう。バーガーキングを運営するレストラン・ブランズ・インターナショナルのパトリック・ドイル会長は「バリュー」をさらに重視すれば業界全体を支えることにつながるとみています。「価格が少し高くなりすぎたという認識がある」と6月下旬の投資家会合でこう認めたうえでバリューセットを巡る話題によってファーストフード業界に対する消費者の印象が変わり、客足が戻ってくることを戦略として進めている価格設定動向について注目です。