生成AIへの関心が高まる中、実はIT業界にあって最も大きな影響を受けるのはソフトウェア開発だとの指摘があります。事業会社で内製化を加速する可能性もあり、請負型IT企業はビジネスモデルの転換を迫られることになります。

 生成AIがIT産業の収益構造を瓦解させるという声が出ています。ソフトウェア開発工程の3~4割を占めるコーディング作業が生成AIに置き換わると言われています。事業会社各社も社内で生成AI活用の検証を進める中、生成AIをソフトウェア開発に適用し、内製化率を高めようとしています。

 生成AIの活用によって生産性を向上させると各社の意気込みは強いですが、ソフトウェア開発の設計からレビュー・プログラム・テスト・納品までの工程においてより生産性など効果の高いアウトプットを得るためにはプロンプト(指示文)にどんな文章を入力すれば有効かといった正確なインプットが求められます。プロンプトを工夫すればもっと良くなる、使い慣れれば効果は高まるとの意見が多いことから各社の活用ノウハウの蓄積が急がれています。

 生成AIは誰が書いたかわからないソースコードを参照しているため不都合なコードが含まれていないかを疑って使うことになります。生成されたコードを信じるためにはより丁寧な学習とITエンジニアによる確認作業が必要になり信頼性を担保するためのテスト工程を増やす必要も出てきます。

 生成AIを使って生産性やコード生成の精度を高めるには過去のソースコードを積み上げて学習させる必要があります。そのため請負型のシステムインテグレーションに生成AIを使うには利用企業との契約が必要となってきます。納品後、ソフトウェアが手元に残らない契約では生成AIの活用効果が薄れてしまいます。

 ソフトウェア開発費用を従来からの人月計算で見積もる限り、生成AIを使ってソフトウェア開発の生産性を高め短期間で開発が可能になれば請求できる金額も下げざるを得ないことになります。そうなるとソフトウェア開発費用の見積もりや請求指標などに関する議論が必要になってきます。そうしたリスクを補うために高付加価値ビジネスとして生成AIを使ったシステム構築を新たなビジネスモデルとして新規需要を開拓する動きもあり、生成AIを使ったコンサルティングや経営改革支援も開始されています。

 新たな需要の取り込みに力を入れる背景には生成AIの活用がシステムインテグレーターを死滅させると予測する向きがあるからです。誰が詳細設計を担当し、誰がレビューするのか。あるいはプロンプトのチェックなど仕事量ではなくタスクが増えます。最後は人になるため専門知識をもったエンジニアとドメイン知識をもつIT企業、業界固有の知識を持つ協力会社がカギとなるでしょう。下請けとしてソフトウェア開発だけを請け負う受託開発会社には最も厳しい未来が待っているように見えます。産業構造や事業構造の変化を見極め、生き残り策を考えなければIT企業はこれから起こるであろう再編・淘汰の波に飲み込まれてしまうでしょう。