日本企業の稼ぐ力が衰えており、PBR1倍割れが半数を占めるという市場から「会社を解散したほうがまし」と評価されているのは問題です。東証は日本企業が市場から評価されるため、情報開示とROE(自己資本利益率)の改善に向けた「資本コスト経営」を日本企業に要望しています。4月末のプライム市場上場企業の57%は情報開示済ですが、43%はまだ開示されていません。

 経営者はROEとPBRについて目標数値・目標達成時期を公表すべきです。これらが公表できないのであれば経営者失格です。市場から解散したほうがましと評価されている企業は上場する意味がありません。日米の差で言えば、日本は純資産を過剰に抱えていることがROE低迷の原因と言われています。

 現在、株主還元でROEを改善しようとしていますが、PBRが1倍割れの低水準では株主還元性向を仮に100%にしてもROEには変化がありません。PBRが高い企業には株主還元性向を上げれば効果はありますが、早く市場にそれをコミットしなければ効果的とは言えません。市場に早く株主還元を公表することで株価やPBRはすぐに反応します。先にPBRを上げることで株主還元を行えばPBRが高ければ高いほど、そして株主還元性向が高ければ高いほど、ROEは改善されます。

 企業は近年、新しい成長市場を見つけにくくなっています。企業はかつて、利益の一部を社会の発展のために再投資したら急速な成長を犠牲にすると思い込んでいました。実際にはその反対が本当であることを企業は理解しなければならないと思います。ビジネスをするにあたっては負の外部性を考慮に入れる必要があります。企業の何十年もの積極的な成長戦略は環境を劣化させ社会を不平等にしてきました。その結果、活力が失われ、衰退している社会の中では企業は繁栄できない状況に追い込まれています。

 成長だけに重点が置かれ、社会開発が無視されるなら企業はすぐに限界に達するでしょう。富の二極化が進む中で、市場、とりわけ下半分の市場はより野心的な成長戦略を吸収することなどできないにちがいありません。成功するのは負の外部性を修復するだけの力を持っている企業だけです。だから企業が持続的になるには成長計画に社会開発の主な要素を盛り込まなければなりません。

 企業による社会投資は将来の成長という観点から優良投資であることが証明されるでしょう。十分に対応できていない何十億人もの人々が貧困から脱し、もっと教育を受け、もっと高い所得を得るようになれば世界中の市場が大きく成長します。それまで開拓されていなかったセグメントが新しい成長の源泉になります。そのうえ、より安定した社会と持続的な環境のなかでビジネスをするコストとリスクがはるかに低くなります。

 ROEを5年間で現在の1.5倍に改善するだけで日経平均は7万円に、現在の2倍に引き上げることができれば日経平均は10万円まで伸びると予測されています。経営者が株主還元を積極的に進めることができれば資本コスト経営がかなり改善します。社会開発も将来の成長投資に必要な要素です。証券アナリストや投資家と深い議論を行ってもらいたいものです。