米国の景気後退を100%的中させてきた「サーム・ルール」をご存じですか。サーム・ルールでは「失業率の3か月平均が過去12か月の最低値から0.5ポイント上昇したとき」に景気後退と判断されます。最近では2001年・2008年・2020年にシグナルが発動していずれも景気後退となりました。現在のサーム・ルール指標は0.37と上昇してきていますが、景気後退シグナルの0.5まではまだ少し余裕があります。

 景気後退を判断する基準として失業率は重要な指標のひとつです。景気後退の判断には他の経済指標も考慮されますが失業率の変動は特に注目されます。景気後退の定義は国や機関によって異なりますが、一般的には経済成長が一定期間にわたってマイナス成長を示すことを指します。米国では全米経済研究所(NBER)が公式に景気後退を宣言し、その判断には4つの要素が含まれます。

 一つ目はGDPの減少でGDPが2四半期連続で減少することがよく基準として使われます。二つ目は失業率の上昇で失業率の上昇は経済活動の減速を示す重要なサインとみなされます。三つ目は個人消費と企業投資の減少で消費支出や企業の投資活動が減少することも考慮されます。四つ目は産業生産の低下で製造業やサービス業の生産量の減少も景気後退の兆候となります。

 米国の最近の失業率は、1月:3.5%・2月:3.6%・3月:3.7%・4月:3.8%・5月:3.9%・6月:4.0%と失業率が徐々に上昇している場合、経済が減速している可能性があります。しかし、失業率が多少上昇しただけでは即座に景気後退と判断するのは早計です。その他の経済指標との組み合わせが重要です。

 第一四半期の実質GDP成長率は1.3%、個人消費の伸びが鈍化したことが響いています。米国経済の7割以上を占める個人消費は2.0%増と市場予想の2.2%を下回っています。高金利やコロナ禍に積みあがった貯蓄が減少、所得も伸びが鈍化する中、個人消費の伸びは鈍化しています。一方、設備投資や住宅投資は堅調です。製造業の景気指数はISM製造業景気指数や製造業購買者担当者指数を使いますが、50前後を推移しており動向を注視する必要があります。

 米国の場合、移民が個人消費を下支えしてきました。しかし、バイデン政権は移民規制を行いましたので今後は影響を注視する必要があります。また、高金利が長く続いているためクレジットカードで買い物をする米国人の債務支払い延滞率が上昇しています。Buy Now Pay Laterで米国人の債務がこれ以上増え続けることができなくなると個人消費に大きな影響を及ぼすでしょう。一方で株式や不動産の資産効果が消費を動機づけており、現状では個人消費は底堅いと感じます。

 日本の最近の失業率は、1月:2.6%・2月:2.7%・3月:2.8%・4月:2.9%・5月:3.0%・6月:3.1%と失業率が徐々に上昇しているのは重要なシグナルです。これが長期的なトレンドとなる場合、景気後退の兆候となります。GDP成長率は第一四半期が-0.2%、第二四半期が-0.3%と予測されています。個人消費支出は第一四半期が-1.5%、第二四半期が-1.7%と予測されています。企業投資は第一四半期が-2.0%、第二四半期が-2.5%と予測されています。産業生産指数は第一四半期が-1.0%、第二四半期が-1.3%と予測されています。これらの指標が総じて悪化している場合、失業率の上昇とあわせて景気後退の可能性が高まります。

 日本の場合は個人消費が弱いままです。少子高齢化が進んでおり、円安や原油価格の上昇で輸入物価が上昇していますので個人消費は弱い状態が続くと思われます。失業率の上昇とGDPのマイナス成長が続けば景気後退となる可能性が高くなります。企業の投資や産業生産動向をみて考えなければならないですが、最近の経済データを見る限り景気後退の可能性は高まっていると思います。賃金上昇は中小企業の伸びを見る限り、限定的で実質賃金がプラスに転じるかは疑問です。衰退した社会では企業の成長はできません。日本企業の内部留保を社会開発にどれだけ使うことができるかがカギを握ります。