財務省が発表した国際収支(速報版)によると2023年度の経常収支は25兆3390億円の黒字でした。貿易赤字が縮小する一方で企業の投資収益が大幅に増え、累積黒字額は過去最大となりました。黒字拡大は本来なら円高要因となりますが、逆に円安が進み、海外での稼ぎが還流しにくい状況となっています。世界は日本をどのように評価しているのか。逆に心配になってきます。

 経常黒字は2年ぶりに増加、黒字額は比較可能な1985年以降で最大だった2007年度の24兆3376億円を上回りました。2022年度からが黒字が16兆2604億円増えました。

 経常収支のうち貿易収支は3兆5725億円の赤字で前年度から赤字幅を縮小させました。原油など資源価格の高騰で前年度は赤字が膨らんでいました。2023年度は輸出額が前年度比2.1%増の101兆8666億円だったのに対し、輸入額は10.3%減の105兆4391億円でした。

 海外への投資に伴う受払である第一次所得収支は35兆5312億円に膨らみました。専門家からは中長期的に黒字を確保していく姿は円の信認を維持するうえで大事だが、直接投資収益の黒字のうち半分程度が海外への再投資に回っており、経常黒字が過去  最大になっても短期的には円高要因にはなりにくいとの声が出ています。

 一定期間における海外との財・サービスの受払(貿易・サービス収支)や海外への投資に伴う受払(第一次所得収支)などで構成される経常収支は長らく黒字で推移していますが、その内訳は大きく変化しています。

 これまで経常収支黒字をけん引してきた貿易収支は2000年代半ば以降、徐々に黒字幅を縮小し、2012年から2015年にかけては赤字に転じるなど常態的な黒字ではなくなっています。一方、第一次所得収支の黒字幅は徐々に拡大し、2000年代半ば以降は第一次所得収支の黒字が経常収支黒字の主因となっています。

 2024年度も経常収支は26兆9520億円の黒字となり、2023年度に続き二年連続で過去最高を更新する見通しです。貿易収支は1440億円の赤字となり赤字幅が一段と縮小することが主因とみています。サービス収支はインバウンド需要の回復が一巡することもあり赤字が3兆9100億円と2023年度とほぼ同水準となる見込みです。

 経常黒字のけん引役が長らく日本の成長を支えてきた「モノ」の輸出から海外事業や投資による収益へと移行してきました。第一次所得収支の黒字は日本が過去に貿易で稼いだ巨額のお金を海外に投資し続け、大きな資産を形成してきた結果です。第一次所得収支はそこから自動的に得られる「不労所得」であり、これによって経常収支の赤字を防いでいるのです。

 しかし、第一次所得収支への依存は危険です。財務省もこれを放置しておけば大変なことになるという危機感を有識者と共有しています。日本は原発停止を受けて原油輸入が急増する一方で輸出は期待された円安効果が見られず伸び悩んでいます。構造的な貿易赤字を第一次所得収支で埋め合わせていますが、この状況は長続きしません。

 第一次所得収支の黒字の源はかつて貿易で稼いだお金です。したがって、このまま貿易赤字が続けばやがて海外資産の取り崩しを迫られ、第一次所得収支も悪化し、貿易収支の赤字を埋めきれなくなります。

 根源的な問題は日本企業の稼ぐ力を欧米企業と同じくらいに上げることです。デジタル化で新たな事業を構築し、貿易収支を黒字にする努力をしない限り、日本は赤字で苦しむ貧乏国として世界から認識されることになるでしょう。