日本で「老後資金は2000万円必要」といわれてきましたが、最近では単身者で約3000万円以上、夫婦で約5000万円以上の金額が必要と言われています。ただし、これは最低限必要な金額であり個々の生活水準や家族構成を考慮するとさらに多くの資金が必要になる場合があります。

 米国では150万ドル(約2億2700万円)が必要だとする調査結果があります。これは米国人の平均的な貯蓄額8万8400ドル(約1300万円)の約17倍に相当します。チャールズ・シュワブの調査によれば米国で現在の貯蓄目標は平均180万ドル(約2億5800万円)と前年の170万ドルから上昇しています。

 大谷翔平選手がハワイに別荘購入したと話題になりましたが、ハワイで老後を快適に過ごすためには200万ドル(約3億円)以上が必要と調査結果で示されています。一方、ウェストバージニア州では69万ドル(約1億円)以上が必要です。地域によって差があるとはいえ、相当な額が老後を快適に過ごすためには必要なことだけは確かです。

 米国では退職金制度がないため、老後資金の不足問題が深刻化しています。勤労者の半分が老後資金を十分蓄えていないため、公的年金に依存するしかありません。単身者の公的年金の平均月額受給額は1277ドル(約14万円)です。ノースウェスタン・ミューチュアルの調査によれば米国人の37%は老後資金ゼロとなっており、3人に1人は一生働き続けて生きていかなければならないのが実態です。

 民間企業で働く5700万人(全従業員に占める比率は48%)は企業年金もありません。多くの民間企業は中小企業で企業年金制度を持っていません。企業年金は大企業で働く人のみの特権となっています。現在、企業年金は「確定拠出型(401k)」が主流ですが、それでも企業年金を提供する企業は減少傾向です。

 企業年金がない企業で働く人は「個人退職勘定」を利用するしかありません。これは個人が税の優遇措置が受けられる個人年金口座に資金を積み立て、老後に備える制度です。低所得者の場合、金融機関が口座開設を受け入れないので実質的にこの制度を利用できない人が多いという現実があります。

 確定拠出型(401k)の平均パフォーマンスは4-8%(債券4割・株式6割で投資した場合)で、これを上限までフル活用すれば老後資金は蓄えられますが、それも4割が活用していないのが実態です。また、上述のように確定拠出型年金の提供を止める企業が続出しており、米国では完全に老後は個人の責任で準備してくださいという話になっています。

 残された道はできるだけ長く働き続けることです。現在75歳以上で働いている人は11%に達しています。1996年は5%に過ぎなかったのが、今では倍増しています。今後もこの比率は増え続けるといわれています。社会とのつながりや生きがいを求めて働き続ける人もいますが、多くの人は老後資金不足を補うために働かざるを得ない状況です。

 日本でも劣悪な雇用環境でも働かざるを得ない高齢者が増えているのが実情です。実際に公的年金だけでは生きていけない高齢者が増えています。日本企業の稼ぐ力の劣化は従業員や賃金をこれまで犠牲して埋め合わせてきました。日本政府が真に国民の幸福を考えるのであれば個人型ではなく企業型にして拠出型年金(401k)は必須義務にし、掛け金は企業だけが支払うようにすべきです。企業に企業年金を払う力もないのであれば米国のように老後は個人責任で準備してくださいとはっきり国民に対して言うべきです。

個人が長期運用に目覚め、投資先やポートフォリオは個人が決めるようにすれば国民の投資への意識は格段に高まります。家計の資産効果が米国に比べて少ない日本において老後資産という資産づくりを通して本気で投資に取り組めば、貯蓄偏向型ポートフォリオから株式や債券にもっと投資して日本経済に資産効果という個人消費に強い援軍を得ることになります。そうなればぜい弱な個人消費から脱出して日本経済は強くなります。