2023年度の決算は非常に好調で会社の業績予想を上回るケースが続出しています。日経の集計(東証プライム170社対象)によると製造業の純利益は前期比23%増の14.8兆円で非製造業(前期比7%増の11.6兆円)を超えています。製造業の優位は2022年3月期以来で2021年3月期までは10期連続で非製造業を下回っていました。

 日本は非製造業のほうが稼ぐ構図でしたが、久々に製造業が復権しました。一方、今期予想は保守的です。TOPIX採用企業の会社予想では営業利益ベースで前期比8.1%の減少です。市場予想のたたき台であるQUICKコンセンサスでは2.9%の営業増益を見込んでいただけに市場は肩透かしと言われているくらいです。

 理由として中国と欧州の景気減速を挙げていましたが、逆ではないでしょうか。中国は底打ちの兆しが出ており、今年の全中3会で政府支援策が出てくることを考えれば今年から中国景気は回復が予想されます。懸念は不動産の不良債権処理です。欧州についてもインフレ率低下から今夏にも利下げを予定しています。欧州の景気は今年から回復すると考えられます。

 二番目の理由が円安効果の剥落ということでしたが、トヨタ自動車は今期為替レートを1ドル145円前提としています。実勢レート(155円前後)を考えると為替に対する考え方が論理的ではないと感じます。為替で実績予想のバッファーとしているのではないでしょうか。2023年度決算も営業利益20%減の2兆4000億円予想が円安で5兆3529億円と倍以上だったことを考えるとトヨタ自動車の見通しは超保守的というより為替で下方リスクを過剰に抑え込んでいると思わざるを得ないです。

 三番目に賃上げや設備投資を行うことが挙げられています。これは経済を回していくには必要なものですが、日銀がゼロ金利を解除し、金融政策正常化に舵を切ったことから利上げを保守的に見る理由として挙げるのはどうなのでしょうか。高金利が企業活動を押し下げるというのは欧米のような5.5%金利の世界です。ゼロ金利を解除したばかりの日本において利上げといっても1%くらいの世界です。これで企業活動の負担になるというのは企業の存在意義を疑われると思います。

 投資は長期的スタンスで行うべきものです。決算という結果だけでなく、先行き見通しは非常に重要な意味を持ちます。業績以上に見通しを重視する投資家もいます。見通しを保守的にすればいいという空気は世界から見れば信用を失い、日本売り、円安の誘因になります。円安のほうが良いと考えて意図的にそうしているのなら別なのですが、どうなのでしょうか。

 今期の好決算は円安による恩恵を受けた企業が多かったというのが輸出企業を中心に実態です。輸入コスト上昇は個人消費をますます保守的にさせ、企業活動のコスト上昇にもつながるので利益予想のネガティブ要因としてみるのはわかります。しかし、見通しを保守的にして為替など外部要因で業績を一喜一憂するようでは日本企業の稼ぐ力は欧米企業に比べて劣ったままだと判断されても仕方がないでしょう。

 海外プラットフォームで労働生産性向上を図るのは今や当たり前になり、巨額なデジタル赤字は企業にDXが浸透していることを示しています。稼ぐ力の向上はDXで労働生産性を上げ、新規ビジネスを創出することを考えなければならないのです。貿易収支を黒字に転換し、持続的な成長を目指すには労働生産性の上昇と実質賃金の上昇は必要条件です。これまで賃金や雇用を犠牲にし、見かけだけの保守的な見通しと飾った業績発表でダイナミックさに欠ける日本企業の姿は投資家からみれば相変わらずにしか映らずマイナスの効果しかもたらさないでしょう。