2023年、米国南西部のメキシコと接する国境地帯で拘束された中国からの不法移民が1年前の10倍に急増しました。2023年4月には、テキサス州南東部から米国に入国した20人以上の中国移民全員はソーシャルメディアが自分たちの計画の助けになったと語っています。背景には中国の景気後退に伴う中産階級の経済困窮などが考えられています。

 米国への中国人の移民は1840年代から始まっており、1860年代に急増しました。1882年5月6日にはチェスター・A・アーサー大統領が署名した「中国人排斥法」が制定され、中国人労働者の移住が禁止されました。これは米国史上最も重い制限のひとつで中国人は「帰化不能外国人」として米国人の境界外に置かれました。その後、中国からの移民を禁止する法律は1943年に廃止されました。1952年にはあらゆる人種の人たちに米国市民権の獲得を認める法律が承認されました。

 2024年3月4日時点で、米国には502万5817人の中国人が在留しており、移民全体の5%を占めており、カリフォルニア州やニューヨーク州などに集中しています。2003年から2023年の間に中国人の移民申請の約70%が承認されており、中国を離れる理由がおおむね信頼されていることも示唆されています。

 現在、大統領選を控え、争点となっているのは不法移民の問題です。とりわけメキシコ国境からわたってくる中国人の不法移民が急増しており国境警備で問題となっています。中国では稼げなくなったので出稼ぎのために出国し、海外を転々と渡り歩く中国人の急増です。中国の国際地位の向上によりビザ不要で入国できる国が増えています。ビザがいらない東南アジアへ行き、その後、中南米に行く中国人が増えており、アメリカと国境を接するメキシコにたどり着きます。

 メキシコと国境を接する米国の州はたくさんありますが、中国人不法入国者が選ぶのはカリフォルニア州です。州独自の移民取締法を目指すなど施行不法移民に厳格な対応をとるテキサス州など共和党が州知事を務める地域とは違って、カリフォルニア州では不法移民に対する扱いが良いと考えられているからです。

 不法移民は自ら国境警備隊に出向きます。手錠をかけられて、入国管理施設に収容された後は亡命申請するものに対しては簡単な審査で身柄は解放されます。不法移民は自由の身となり、それぞれの目的地に向かい、米国では亡命希望者は一定の条件を満たせば、米国内での滞在が認められています。

 トランプ氏は大統領在任中にメキシコとの国境に巨大な壁を建設しましたが、不法移民からみればカリフォルニアに入ってしまえば成功です。現大統領のバイデン氏は入国管理を強化したり、国境警備の人員を増やしたりすることが不法移民の流入を防ぐことにつながると主張しています。そのために国境警備法案の成立が不可欠なのですが、議会のねじれのため、与野党で対立し法案成立が見通せない状況です。

 トランプ氏は移民が増えたのは民主党政権のせいにしてバイデン氏の失政にしようと考えています。国内で起こる犯罪と移民を結びつけ、国内の失業問題も移民のせいだと主張してきました。一方、バイデン氏は移民国家である米国は移民を悪者扱いせず、移民制度を修正し、国境を守り、夢を追う者たちに市民権取得への道を提供するという考えです。

 大統領選が近づけば、外交姿勢が強硬になり内向きに転じるのはこれまでも繰り返されてきました。米中対立のなかでこの不法移民問題が大きな要素になる可能性はあります。トランプ氏の主張を支持する米国人が多い背景にはこの移民問題があるのでしょうか。しかし、忘れていけないことは米国経済の強さは移民が支えているのも事実です。有権者がどう大統領選で判断するのか注目です。